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廃業の税金処理は届出4種類と申告の特殊論点から始まる

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個人事業主の廃業時の税金と確定申告|届出4種類と廃業年の特殊処理【2026年版】

個人事業主の廃業に必要な税務手続きを実務手順で整理。所得税の青色申告取りやめ届出、事業廃止届、廃業年の確定申告の特殊論点(棚卸資産処分・固定資産の家事転用・開業費の一括償却)、消費税対応まで2026年版で解説します。

個人事業主が事業を廃業するとき、税務面で行うことは「届出書の提出」と「廃業年の確定申告」の2つに大別されます。法人の解散・清算と異なり、個人事業の廃業は会社法上の手続きを伴わないため一見シンプルですが、廃業年の所得計算には特殊な論点があり、見落とすと納税額が変わります。

本記事は、個人事業主の廃業時に必要な届出4種類、廃業年の確定申告の特殊処理、消費税対応、国民健康保険・年金との接続まで2026年版で整理します。法人と個人事業の違いを踏まえた廃業全体の判断は廃業手続きガイドを参照してください。

廃業時に提出する届出書 4種類

個人事業主の廃業で必要な税務署への届出書は、状況に応じて以下の4種類です。

廃業の手続きは3つの窓口に分かれる税務署届出4種類・開業/廃業等届出書・青色申告の取りやめ・事業廃止届出書・給与支払事務所廃止申請1種類・予定納税の減額都道府県税事務所個人事業税・事業開始(廃止)等 申告書廃業後に納付書が届く見込控除で廃業年の必要経費にできる市区町村住民税・前年所得に課税償却資産税・1月1日の所有者廃業後に納付書が届く税務署だけで終わらせると、個人事業税と住民税の資金手当てが抜ける
納付書が届くタイミングが窓口ごとにずれる。廃業して収入が止まった後に来るものがある点が資金繰りの落とし穴

ここでいう4種類は税務署への「届出」に限った数です。 ほかに、税務署へ出す「申請」として予定納税額の減額申請があり、都道府県税事務所へ出す個人事業税の廃止申告もあります。どちらも後述します。「4つ出せば終わり」ではない点に注意してください。

届出書提出期限提出が必要なケース
個人事業の開業・廃業等届出書廃業した年分の確定申告期限まで(令和8年1月1日以後)全員必須
所得税の青色申告の取りやめ届出書やめようとする年分の確定申告期限まで(通常は翌年3月15日)青色申告者。ただし全事業を廃止するなら提出しなくても自動失効
事業廃止届出書(消費税)速やかに消費税課税事業者だった場合
給与支払事務所等の廃止届出書廃業日から1ヶ月以内従業員を雇用していた場合

個人事業の開業・廃業等届出書

これは廃業時に必ず提出する基本書類です。税務署で配布されているか、国税庁ウェブサイトからダウンロード可能です。

提出期限が「1か月以内」から変わっている

この届出書の提出期限は、長らく「事実があった日から1か月以内」でした。令和7年度税制改正で所得税法第229条が改正され、令和8年1月1日以後は「その事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」となっています。国税庁の手続案内も提出時期を確定申告期限までと案内しています。期限が土日祝にあたる場合は翌日が期限です。

ただし、期限が緩んだのは廃業届だけです。給与支払事務所等の廃止届出書は所得税法第230条により1か月以内のままですし、消費税の届出は「速やかに」です。廃業届に合わせて全部を先延ばしにすると、他の手続きの期限を落とします。

記載項目は事業主の氏名・住所・職業、廃業日、屋号、廃業の理由、提出先税務署など。提出先は廃業日時点で納税地を管轄する税務署です。「廃業」欄にチェックを入れ、廃業日を明記します。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

ここは「出さないと承認が残り続ける」と誤解されやすいところです。条文を分けて読んでください。

状況青色申告承認取りやめ届出書
不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき業務の全部を廃止した廃止した日の属する年の翌年分以後は自動的に効力を失う(所得税法第151条第2項)提出しなくても失効する
事業はやめるが不動産所得などの業務が残る残るので継続するやめたいなら提出する

つまり全部やめるなら、届出書を出さなくても翌年分以後の承認は消えます。取りやめ届出書が意味を持つのは、業務が残っているのに青色申告をやめたい場合です。

提出する場合の期限は、やめようとする年分の所得税に係る確定申告期限まで(通常はその年の翌年3月15日)です(同条第1項)。

なお青色申告の対象は不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき業務を行う人です(所得税法第143条)。株式の譲渡所得だけが残っても青色申告は続けられません。承認が失効したあとに事業を再開する場合は、改めて青色申告承認申請書の提出が必要で、その年から65万円控除を使えるとは限りません。

事業廃止届出書(消費税)

消費税課税事業者だった個人事業主は、所得税の届出と別に消費税法上の事業廃止届出書を提出します。提出先は同じ税務署です。

消費税の届出は、状況によっては1種類では足りません。 国税庁は次の5種類を挙げており、いずれも提出期限は「事由が生じた場合速やかに」です。

届出書提出が必要なケース
事業廃止届出書課税事業者が廃業した場合/適格請求書発行事業者が廃業した場合
消費税課税事業者選択不適用届出書課税事業者を選択していた場合
消費税簡易課税制度選択不適用届出書簡易課税制度を選択していた場合
消費税課税期間特例選択不適用届出書課税期間の特例を選択していた場合
任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書任意の中間申告制度を適用していた場合

ただし全部を書く必要はありません。いずれか1通に事業を廃止した旨を記載して提出すれば、他の届出書の提出があったものとして取り扱われます。 事業廃止届出書を提出した場合も、他の不適用届出書等の提出があったものとして扱われます。

インボイス登録者は「登録の取消しを求める旨の届出書」ではない

適格請求書発行事業者が事業の廃止に伴って登録を取り消す場合、提出するのは「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」ではなく、事業廃止届出書です。国税庁が明記しています。名前から取消届出書を選びたくなるところですが、廃業が理由なら事業廃止届出書1通で足ります。

給与支払事務所等の廃止届出書

従業員(家族専従者を含む)に給与を支払っていた場合は、給与支払事務所等の廃止届出書を提出します。源泉徴収を行っていた事業主の義務終了の届出という位置づけです。

この届出を出しても、廃業日までに支払った給与についての義務は残ります。最終給与の源泉徴収税額の納付、従業員の年末調整(年の途中で退職した場合は原則として退職時には行わず、従業員が転職先で年末調整を受けるか自分で確定申告します)、給与所得の源泉徴収票と支払調書の提出、法定調書合計表の提出が必要です。

納期の特例(源泉所得税を年2回にまとめて納付する制度)の承認を受けていた場合は、廃業に伴ってその特例も終わります。最後の納付時期を取り違えないよう、税務署に確認してから納めてください。

廃業届を出さないとどうなるか

罰則は定められていません。ただし出さないと、税務署は事業が続いている前提で扱い続けます。

  • 確定申告書が届き続け、申告がないと「無申告」として問い合わせを受けることがある
  • 青色申告の取りやめ届出書を出さない限り、青色申告の承認は生きたままになる
  • 消費税の課税事業者選択や簡易課税の選択も、不適用届出書を出すまで効力が続く
  • 個人事業税についても、廃止申告をしないと都道府県が事業継続とみなす余地が残る

罰則がないことと、出さなくてよいことは違います。 手続きを止めた状態は、後から再開したときや、融資・給付金の申請で事業実態を証明するときに面倒になります。

廃業日をいつにするか

廃業日は自分で決められますが、税務上いくつか連動します。

廃業日が動くと変わるもの内容
減価償却費事業供用期間に応じた月割りになるため、廃業月が1か月違うと償却費が変わる
消費税の課税期間廃業日の属する課税期間までが申告対象になる
給与の源泉徴収従業員がいる場合、最終給与の支払日と廃業日の前後関係で年末調整の要否が変わる
予定納税の減額申請6月30日/10月31日の現況で判断するため、廃業がその前か後かで使える窓が変わる

月末で区切ると帳簿の締めと合わせやすく、実務上は扱いやすくなります。ただし取引先との精算や在庫処分の完了時期のほうが優先されることも多いため、税務だけで決める必要はありません。

廃業ではなく「休業」という選択

所得税には休業の届出制度がありません。事業を一時的に止めるだけなら、廃業届を出さずに活動を止めるという形になります。

判断材料になるのは純損失の繰越控除です。青色申告の承認を維持していれば、赤字を翌年以降に繰り越して、事業を再開した年の所得と相殺できます。廃業届と青色申告の取りやめ届出書を出してしまうと、再開時に開業届と青色申告承認申請書を出し直すことになります。

再開の可能性が具体的にあるなら、廃業を急がずに判断してください。廃業と事業再生・事業承継のどちらを選ぶかは廃業と事業再生の比較で整理しています。

税務署に出す「申請」— 予定納税を止める

届出とは別に、出さないと払いすぎになる申請があります。所得税の予定納税額の減額承認申請です。

前年の所得を基準に予定納税額が決まっているため、年の途中で廃業すると、その年の所得は予定納税基準額を大きく下回ります。放っておくと、廃業後に第1期・第2期の納付書が届き、いったん納めてから翌年の確定申告で還付を受けることになります。

予定納税を止められる窓は2回7月15日まで6月30日の現況で判断第1期・第2期が対象11月15日まで10月31日の現況で判断第2期のみ対象申請しないと、いったん納付してから翌年の確定申告で還付を受けることになる根拠は所得税法第111条。通知書が期日までに発せられなかった場合は期限が延びる
資金繰りが厳しい時期の廃業ほど、この申請の有無が効いてくる

所得税法第111条は、申請できる場面を2つに分けています。

判断の基準日申請期限減額される対象
その年の6月30日の現況その年の7月15日まで第1期・第2期の予定納税額
その年の10月31日の現況その年の11月15日まで第2期の予定納税額

いずれも「申告納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる」ことが条件です。なお予定納税額の通知に係る書面が6月15日(または10月15日)までに発せられなかった場合は、申請期限がその書面が発せられた日から1か月を経過する日まで延びます(同条第3項)。基準は発出日であって、手元に届いた日ではありません。

都道府県に出す「個人事業税の廃止申告」

税務署の手続きだけで終わりにすると、個人事業税が抜けます。個人事業税は都道府県の税金で、届出先が税務署ではありません。

個人事業税は前年の所得に対して課され、通常は8月と11月の年2回で納めます。つまり廃業した後になって納付書が届きます。廃業したから課税されない、ということはありません。

廃業した場合は、事業を廃止した日から一定期間内に、都道府県税事務所へ「事業開始(廃止)等申告書」を提出します。期限や様式名は都道府県ごとに異なるため、事業所のある都道府県税事務所の案内を確認してください。

廃業年の事業税は「見込控除」で必要経費にできる

ここが実務でいちばん取りこぼされる論点です。

事業税は本来、賦課決定によって納付すべきことが具体的に確定した年分の必要経費になります(所得税基本通達37-6)。廃業年の事業税は翌年に賦課決定されるので、そのままだと廃業年の必要経費にできません。

そこで通達37-7が特例を置いています。事業を廃止した場合、廃止した年分の所得に課される事業税は、課税見込額をその年分の事業所得の計算上、必要経費に算入できます。

見込額は、事業税の見込額を控除する前の事業所得の金額(A)、事業税の課税標準の計算上Aに加減算する金額(B)、事業税の税率(R)を使った算式で計算します。算式そのものは通達37-7に示されています。

見込控除を使わなかった場合の受け皿もある

見込控除によらない場合は、事業税の賦課決定があった時点で、所得税法第63条(事業を廃止した場合の必要経費の特例)と第152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)が適用されます。つまり後から取り戻す道は残っています。ただし第152条の更正の請求は、その事実が生じた日の翌日から2か月以内という短い期限です。手続きの詳細は更正の請求のやり方と期限で解説しています。

廃業年の確定申告における事業税の扱いは、廃業時の確定申告でも実務手順に沿って整理しています。

廃業年の確定申告——3つの特殊処理

廃業年の確定申告は通常の確定申告と基本的な流れは同じですが、廃業に伴う特殊論点が3つあります。

1

棚卸資産の処分損益を計上

廃業日時点で残っている商品在庫は、自家消費・廃棄・売却のいずれかで処分する。自家消費は原則として通常の販売価額で総収入金額に算入するが、取得価額以上の金額で帳簿に記載していれば、通常の販売価額のおおむね70%を下回らない限り認められる(所得税基本通達39-1・39-2)。廃棄は廃棄損として経費計上、売却は売却額を売上計上。

2

未償却の固定資産の家事転用処理

事業用固定資産(パソコン・車両・店舗内装等)を廃業後も個人で使用する場合、廃業日時点での未償却残高を「家事転用」として処理。所得税法上、家事転用は譲渡所得の対象外だが、後日売却した場合は事業用ではなく譲渡所得として課税される。

3

開業費の任意償却

開業費は繰延資産として60か月の均等償却が原則だが、その年分の確定申告書に繰延資産の額の範囲内の金額を記載すれば、その金額を必要経費にできる(所得税法第50条、同法施行令第137条第1項第1号・第3項)。廃業年に未償却残高をまとめて経費にできる。

3つの処理を漏らすと所得計算が不正確になり、後日の修正申告が必要になります。

「70%ルール」は販売価額の70%でよいという意味ではない

自家消費の原則は、通常他に販売する価額で総収入金額に算入することです(通達39-1)。39-2はその特例で、取得価額以上の金額を帳簿に記載して総収入金額に算入していれば、その金額が通常の販売価額に比べて著しく低額(おおむね70%未満)でない限り認める、という構造になっています。

つまり満たすべき条件は2つあります。取得価額(仕入価額)以上であることと、通常の販売価額のおおむね70%以上であることです。仕入価額の70%では条件を満たしません。仕入価額が通常の販売価額の70%を下回る場合に、販売価額の70%まで下げてよい、という話です。

廃業年の所得計算例

次の前提で計算します。総売上1,200万円(廃業日までの10か月分)、必要経費900万円、廃業日に残った在庫の取得価額200万円(通常の販売価額に直すと300万円。全て自家消費)、固定資産未償却残高100万円(家事転用)、開業費未償却分20万円(一括償却)。

自家消費の金額をいくらにするかを先に決めます。原則は通常の販売価額300万円ですが、通達39-2により、取得価額200万円以上で、かつ通常の販売価額300万円のおおむね70%(=210万円)以上であれば認められます。この2つを同時に満たす最も低い金額は210万円です。

項目金額
総売上1,200万円
自家消費(販売価額300万円×70%=210万円。取得価額200万円以上を満たす)210万円
売上合計1,410万円
必要経費900万円
開業費の一括償却20万円
経費合計920万円
事業所得(売上合計 − 経費合計)490万円

取得価額の70%(140万円)ではありません。 140万円は取得価額200万円を下回るため、39-2の要件を満たしません。

家事転用した固定資産(100万円分)は所得計算には影響しません。ただし後で売却すると事業所得ではなく譲渡所得の対象になります。また消費税の課税事業者だった場合は、この固定資産が後述のみなし譲渡の対象になる点が所得税と異なります。

消費税の課税事業者は「みなし譲渡」に注意

上の3つは所得税の話です。消費税の課税事業者だった場合、もう1つ論点が増えます。

事業の廃止に伴って事業用資産でなくなった車両などの資産は、事業を廃止した時点で家事のために消費・使用したものとして、事業として対価を得て譲渡したものとみなされます(みなし譲渡)。非課税取引に該当しない限り消費税の課税対象で、廃業時の時価に相当する金額を、廃業日の属する課税期間の課税標準額に含める必要があります。

所得税では家事転用が譲渡所得の対象外なのに、消費税では課税対象になります。同じ資産で扱いが分かれるため、免税事業者だったつもりで見落とすと最終の消費税申告額が変わります。

所得税の70%と消費税の基準を混同しないでください。 棚卸資産の家事消費について、消費税では次の(1)(2)以上の金額を対価の額として申告すれば認められる、という取扱いがあります(消費税基本通達10-1-18)。

所得税消費税
棚卸資産の家事消費取得価額以上、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上(所基通39-2)課税仕入れの金額以上、かつ通常他に販売する価額のおおむね50%以上(消基通10-1-18)
固定資産の家事転用譲渡所得の対象外(後日売却時に譲渡所得)みなし譲渡として時価を課税標準額に含める

割合が違うため、所得税の申告書で使った金額をそのまま消費税に持ち込むと合いません。

従業員がいた場合に増える手続き

従業員を雇っていた場合、税務の届出とは別に、社会保険と労働保険の手続きが加わります。廃業日を起点に期限が短いものが多いため、税務と並行して動かす必要があります。

手続き提出先目安
雇用保険の資格喪失届・離職証明書ハローワーク退職日の翌々日から10日以内
労働保険の確定保険料申告労働基準監督署等事業廃止から50日以内
健康保険・厚生年金の資格喪失届年金事務所事実発生から5日以内
適用事業所全喪届年金事務所事実発生から5日以内

離職証明書は従業員が失業給付を受けるために必要な書類です。廃業による離職は会社都合にあたるため、給付の条件が自己都合の場合と変わります。従業員の生活に直結するので、退職金や最終給与とあわせて早めに伝えてください。 退職金の扱いは廃業時の従業員への退職金で整理しています。

期限や必要書類の詳細は廃業時の社会保険脱退を参照してください。

廃業年の青色申告特典

青色申告を継続している個人事業主は、廃業年でも青色申告特典を受けられます。

  • 青色申告特別控除(最大65万円または55万円):廃業日まで複式簿記が保たれていれば適用可
  • 青色事業専従者給与:廃業日までの支払分は経費算入可
  • 純損失の繰越控除:損失が生じた年分に青色申告書を提出していれば、翌年以後3年間繰り越せます(所得税法第70条第1項)。白色申告の場合、一般の事業赤字は繰り越せず、変動所得の損失と被災事業用資産の損失に限られます(同条第2項)

廃業翌年以降に他の所得(不動産所得・給与所得など)が発生する見込みがあれば、純損失の繰越控除を活かすために青色申告承認を取りやめないという選択もあります。

廃業翌年も確定申告が必要なケース

廃業した翌年も、廃業年に課された所得税の精算(過大納付があれば還付、不足があれば追加納付)の他、不動産所得や年金収入があれば確定申告が必要です。「廃業したから今後は申告不要」とは限らない点に注意してください。

国民健康保険・国民年金との接続

廃業後の社会保険対応は税務とは別の手続きですが、廃業日が連動するため税務手続きと並行して進めます。

健康保険

事業主自身が国民健康保険だった場合、廃業に伴う特別な手続きはありません。廃業後も国保加入を継続します。従業員を雇用して社会保険(協会けんぽ)に加入していた場合は、社会保険の任意継続加入か国保切替を選択します。

国民年金

事業主自身は廃業前後で国民年金第1号被保険者のまま継続します。配偶者を青色事業専従者として雇用していた場合は、廃業に伴って配偶者の被保険者区分が変わる可能性があります(第3号被保険者への変更等)。

詳しい手続きは廃業時の社会保険脱退を参照してください。

法人成りで廃業する場合の特例

個人事業主が法人を設立して事業を継続する「法人成り」では、税務処理に特例があります。

個人事業の廃業届と法人設立届を同時期に提出し、個人事業の資産・負債を法人に引き継ぎます。引継ぎは現物出資(資産を法人の出資金とする)または売買(個人から法人への売却)のいずれかで処理します。

現物出資の場合、譲渡所得が発生する可能性があるため事前に税理士と試算してください。

売買の場合は譲渡対価の設定に注意が必要です。個人から法人への譲渡が「著しく低い価額の対価」(政令で定める額=時価の2分の1未満)に当たると、その時の時価で譲渡があったものとみなされます(所得税法第59条第1項第2号)。個人間の低額譲渡で問題になる贈与税とは別の話で、こちらは譲渡した個人に所得税がかかる仕組みです。法人側では受贈益が問題になります。

法人成りに伴う廃業の場合、廃業届の「廃業の理由」欄に「法人成りのため」と記載するのが慣例です。

法人成りで見落とされやすい3点

1つ目は消費税です。 個人事業の資産を法人へ売買で引き継ぐ場合、その売買は個人事業者としての課税売上になります。棚卸資産や車両・機械を法人に移すと、その分だけ廃業年の課税売上が増え、最終の消費税申告額が変わります。なお消費税で時価によるみなし譲渡とされるのは、個人事業者の家事消費・家事使用や、法人がその役員へ贈与・著しく低い価額で譲渡した場合です。個人から法人への売買は、原則として当事者間で授受する対価の額が課税標準になります。

2つ目は消費税の納税義務です。 個人事業者としての課税売上高と、新設法人の納税義務の判定は別々に行われます。個人時代に課税事業者だったからといって法人が自動的に課税事業者になるわけではなく、逆に個人が免税事業者でも、法人の資本金の額によっては設立初年度から課税事業者になります。インボイス登録を続ける場合は、法人として改めて登録申請が必要です。個人の登録番号を法人が引き継ぐことはできません。

3つ目は事業用の借入金です。 個人名義の借入を法人に引き継ぐには金融機関の承諾が要ります。承諾を得ずに法人が返済すると、実質的に法人が個人の債務を負担したものとして役員給与や貸付金の認定を受ける可能性があります。借入が残ったまま廃業を検討している場合は廃業後に残る借入金の返済も確認してください。

法人成りは「廃業」と名前がついていても、実態は事業の移転です。個人と法人の両方で申告が発生する年が生まれるため、資産の移し方と時期は事前に税理士と決めてから実行してください。

廃業後に届いた請求書は経費にできる

廃業日を過ぎてから、事業に関する請求書が届くことがあります。最終月の通信費・地代家賃、在庫の廃棄費用、店舗の原状回復費用などです。

事業をやめた後の支出なので経費にできないと考えがちですが、所得税法第63条に特例があります。事業を廃止した後に、廃止しなかったとしたら必要経費に算入されるべき費用・損失が生じた場合、その廃止した日の属する年分の必要経費に算入できます。 その年に総収入金額がなかったときは、総収入金額があった最近の年分、またはその前年分が対象になります。

原状回復費用のように金額が大きくなりやすい支出ほど、この特例を使えるかどうかで税額が変わります。廃業後に届いた請求書は捨てずに整理しておいてください。具体的な整理手順は廃業時の確定申告で扱っています。

廃業に伴って発生する税金の全体像

ここまでの内容を、税目ごとに整理します。廃業したその年で終わらず、翌年にまたがるものがある点が要注意です。

税目誰に納めるかいつ廃業年の論点
所得税・復興特別所得税税務署翌年2月16日〜3月15日の確定申告棚卸資産の自家消費、固定資産の家事転用、開業費の一括償却、廃業後費用(法63条)
予定納税税務署第1期7月・第2期11月減額承認申請(7月15日/11月15日)を出さないと払いすぎる
消費税・地方消費税税務署廃業日の属する課税期間の申告期限みなし譲渡、5種類の届出、インボイス登録者は赤字でも申告義務
個人事業税都道府県税事務所通常8月・11月(廃業後に届く)廃止申告、廃業年分は見込控除で必要経費にできる
住民税市区町村翌年6月から(廃業後に届く)前年所得に対して課されるため、収入が途切れた後に納付が来る
固定資産税(償却資産)市区町村毎年1月1日時点の所有者に課税事業用資産を1月1日時点で持っていれば課税される

住民税と個人事業税は、廃業して収入が止まった後に納付書が届きます。 廃業を決めた時点で、この2つの納税資金を手元に残す計画を立てておくと、後で資金繰りに詰まりません。

帳簿と書類は廃業後も保存する

廃業したからといって帳簿や領収書を処分してよいわけではありません。

保存期間
青色申告者の帳簿・書類原則7年。ただし請求書・見積書・納品書・送り状などの書類は5年でよい
白色申告者5年(記帳制度適用者が記帳制度に基づいて作成した帳簿は7年)
消費税の課税事業者仕入税額控除の要件として、帳簿と請求書等の保存が別途必要

適格請求書発行事業者だった場合は、交付した適格請求書の写しや提供した電磁的記録も保存対象になります。

廃業後に税務調査が来ることもあります。 事業をやめても、調査ができる期間(更正・決定の期間制限)が消えるわけではないためです。廃業年は棚卸資産の自家消費や固定資産の家事転用といった、金額の判断が入る処理が集中します。どういう根拠でその金額にしたのかを説明できる資料を、保存期間が満了するまで手元に置いておいてください。

赤字で廃業した場合も申告する意味がある

所得が基礎控除額以下なら所得税の確定申告義務はありません。それでも申告しておく実利があります。

  • 報酬から源泉徴収されていた所得税がある場合、申告すれば還付を受けられる
  • 所得を申告しておくと、市区町村が所得を把握でき、所得(非課税)証明書を発行してもらえる
  • 所得が確定することで、国民健康保険料の軽減判定の対象になりうる

廃業直後は収入が途切れるため、国保料の負担は生活に直結します。申告しないと「所得が不明」の扱いになり、軽減の判定材料がそろいません。

なお、インボイス登録をしていた場合は、所得が赤字でも消費税の申告義務が残ります。所得税の申告義務と消費税の申告義務は別物です。

まとめ

この記事のポイント

  • 税務署への届出は4種類。ほかに予定納税額の減額承認申請(7月15日/11月15日)と都道府県への個人事業税の廃止申告があり、これを含めないと手続きが終わらない
  • 消費税の届出は5種類あるが、いずれか1通に廃止の旨を書けば他の提出があったものとして扱われる
  • インボイス登録者が廃業で登録を取り消すときは、登録の取消しを求める旨の届出書ではなく事業廃止届出書を出す
  • 廃業年の確定申告では棚卸処分・固定資産家事転用・開業費一括償却の3特殊処理が必要。棚卸資産の自家消費は原則として通常の販売価額。取得価額以上、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上なら認められる(所得税基本通達39-1・39-2)
  • 課税事業者は、事業用でなくなった車両等のみなし譲渡を時価で課税標準額に含める
  • 廃業年の個人事業税は見込控除で必要経費にできる(所得税基本通達37-7)。使わない場合は法63条・152条で後から取り戻す
  • 法人成り廃業の場合は資産引継ぎの方法(現物出資 or 売買)で課税が変わるため事前試算必須

廃業の税務処理は届出書の提出だけで終わらず、廃業年の確定申告に特殊論点が複数残ります。届出を出した後に「思っていた以上に所得が出てしまった」とならないよう、廃業を決めた時点で税理士と相談し、棚卸処分のタイミングや家事転用の範囲を整理しておくことを推奨します。

借入金が残っている場合の処理は廃業時の借入金返済、廃業時の確定申告全般は廃業時の確定申告で損しないための5つの注意点も参考にしてください。

出典

(いずれも2026年8月27日に内容を確認しています。個人事業税の申告期限・様式は都道府県ごとに異なります。実際の手続きにあたっては所轄税務署・都道府県税事務所または顧問税理士にご確認ください。)

再生、清算、資金繰りを切り分ける

現在の資金繰り、金融機関対応、廃業時の残債を分けて、次に確認すべき論点を整理します。

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よくある質問

Q. 個人事業主の廃業届はいつまでに出せばよいですか?
A. 令和7年度税制改正で所得税法第229条が改正され、令和8年1月1日以後は「その事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」に提出することとされました。従来の「1か月以内」ではありません。ただし青色申告の取りやめ届出書や消費税の届出は期限が別なので、廃業届だけ遅らせると他の手続きと足並みが揃わなくなります。まとめて出すのが実務的です。
Q. 廃業年の確定申告は通常と何が違いますか?
A. 廃業日までの所得を計算する「準確定申告」ではなく、通常の所得税確定申告として、その年の1月1日から廃業日までの事業所得を集計します。特殊な処理として、棚卸資産の処分損益、未償却の固定資産の家事転用に伴う所得計算、開業費・繰延資産の一括償却(任意)が必要です。
Q. 青色申告の取りやめ届はどのタイミングで出しますか?
A. やめようとする年分の所得税に係る確定申告期限まで(通常はその年の翌年3月15日)に提出します(所得税法第151条第1項)。ただし不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき業務の全部を廃止した場合は、届出書を出さなくても廃止した日の属する年の翌年分以後は承認の効力が失われます(同条第2項)。不動産所得など他の業務が残るときは全部廃止に当たらないため、承認を残すかどうかを判断します。
Q. 消費税課税事業者の場合、廃業時の処理はどうなりますか?
A. 「事業廃止届出書」を消費税の届出として別途提出します(消費税法第57条)。廃業日までの売上に対する消費税を、廃業した年の課税期間の確定申告で納付します。簡易課税事業者の場合も同様で、廃業した年分の消費税申告書を期限内に提出します。
Q. 廃業後に債務が残った場合、税金はどうなりますか?
A. 個人事業主の借入金は事業廃止後も個人債務として残ります。債務免除を受けると経済的な利益として所得になりえますが、破産法の免責許可の決定や再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合には、その経済的利益は総収入金額に算入しません(所得税法第44条の2第1項)。ただし同条第2項に不算入としない部分の定めがあり、第3項により確定申告書への記載が適用の条件です。所得区分の判定も含め、実際の処理は税理士にご確認ください。

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