従業員が辞めてからでは遅い
人手不足倒産を防ぐ|中小企業が今すぐ取るべき5つの対策
人手不足倒産が過去最多を更新し続けています。建設・物流・介護・飲食で深刻化する人手不足の実態と、賃上げ原資確保・省力化投資・M&A・外国人材活用・離職防止の5つの予防策を解説します。
人手不足を原因とする倒産が3年連続で過去最多を更新しています。帝国データバンクの調査によると、2025年の人手不足倒産は427件。さらに、従業員や経営幹部の退職が直接・間接的な原因となった「従業員退職型」倒産は124件にのぼり、初めて年間100件を超えました。
人が採れないから事業が回らない。人が辞めたから事業が回らない。この2つのパターンが中小企業の存続を脅かしています。本記事では、人手不足倒産の実態を整理したうえで、中小企業が取り組むべき予防策を「人材確保」「省力化」「離職防止」の3つの切り口から解説します。
人手不足倒産の実態と中小企業への影響
件数は3年連続で過去最多
| 年 | 人手不足倒産件数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2023年 | 260件 | --- |
| 2024年 | 342件 | +31.5% |
| 2025年 | 427件 | +24.9% |
出典: 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査」
2025年の427件のうち、従業員退職型が124件(前年90件、+37.8%)と大幅に増加しています。採用難型だけでなく、既存従業員の離職による倒産が急増している点が深刻です。
業種別の傾向
建設業が113件で最多、全体の約3割を占めます。物流業(道路貨物運送)が52件で続き、サービス業では老人福祉事業(介護)が21件と前年から7件増加しました。製造業でも退職型倒産が初めて20件を超えています。
2024年4月に建設業・物流業へ時間外労働の上限規制が適用されたことで(いわゆる「2024年問題」)、従来の長時間労働でカバーしていた構造が維持できなくなりました。労働基準法第36条に基づく特別条項付き36協定を結んでも、建設業は年720時間、物流業は年960時間が上限です。この規制は猶予なく適用されているため、人員の純増なしに工事量・配送量を維持する手段が求められています。
規模別の特徴と中小企業が陥る悪循環
人手不足倒産の多くは資本金1,000万円未満の小規模・零細企業です。帝国データバンクの調査では、負債額5,000万円未満の倒産が全体の約4割を占めており、体力のない企業ほど人手不足の打撃が致命的になる構造が浮かび上がります。
大企業は採用力や賃上げ余力で人材を確保できる一方、中小企業は「採用コストが出せない → 人が採れない → 既存社員に負荷が集中 → 離職 → さらに採れない → 倒産」という負のスパイラルに陥りやすい状態にあります。中小企業庁「中小企業白書2025」でも、従業員300人未満の企業の求人倍率が大企業の3倍以上で推移していることが指摘されています。
人材を確保する対策 --- 賃上げと外国人材の活用
賃上げ原資の確保: 価格転嫁と税制活用
人材確保の最も直接的な手段は賃上げです。ただし、原資がなければ実行できません。中小企業庁の調査では、2025年9月時点の労務費転嫁率は50%にとどまっています。
2026年1月施行の中小受託取引適正化法により、協議拒否や一方的な代金決定が禁止されました。下請法の改正も含め、価格交渉の環境は改善傾向にあります。取引先との価格協議を先送りにせず、コスト上昇分の転嫁を求めてください。
賃上げ促進税制も活用できます。給与等支給額が前年比1.5%以上増加した中小企業は、増加額の15%を法人税から控除可能です(2.5%以上なら30%控除)。赤字企業向けの繰越控除(最大5年間)も設けられており、「今は赤字でも将来の黒字期に控除を受けられる」制度設計になっています。
具体例を挙げると、従業員10名で平均年収400万円の企業が5%の賃上げを実施した場合、年間の給与増加額は200万円。賃上げ促進税制の30%控除が適用されれば、法人税が60万円軽減されます。この税制と価格転嫁を組み合わせることで、賃上げの実質負担を抑えられます。
賃上げの財務戦略で詳しく解説しています。
外国人材の活用: 特定技能と育成就労
国内の生産年齢人口が減少を続けるなかで、外国人材の受入れは中長期的な人材確保策として欠かせません。
特定技能制度(2019年開始)は、建設、介護、飲食料品製造など12分野で外国人労働者を受け入れる制度です。2024年には特定技能2号の対象分野が拡大され、在留期間の上限がない長期雇用も可能になりました。
受入にあたっては、出入国管理及び難民認定法に基づく支援計画の策定(生活オリエンテーション、日本語学習支援等)が必要です。自社で対応が難しい場合は、登録支援機関に委託できます。委託費用は受入1人あたり月2万〜4万円が相場です。
技能実習制度に代わる「育成就労制度」も2027年度に施行予定です。従来の技能実習は「技能移転」が建前でしたが、育成就労は正面から「人材確保」を目的に掲げており、転籍(本人の意思による職場変更)の要件も緩和されます。中小企業にとって外国人材活用の選択肢は広がる方向にあります。
業務を省力化する対策 --- DXとM&Aの活用
省力化投資: 「人を増やす」から「人がいなくても回る」へ
採用が困難な環境では、少ない人数で業務を回す仕組みづくりが不可欠です。業種ごとに導入すべき省力化策は異なります。
建設業であれば、ドローン測量やICT施工で現場作業の効率を上げられます。国土交通省が推進する「i-Construction」では、ICT土工の導入によって測量にかかる人工が約5割削減された事例が報告されています。物流業では自動倉庫や配車最適化システム、中継輸送による長距離ドライバーの負荷軽減が有効です。介護では見守りセンサーや記録のICT化で夜間の巡回業務を削減でき、飲食ではセルフオーダーやモバイルオーダーがホール人員の削減に直結します。
中小企業省力化投資補助金(カタログ型)は、IoT・ロボット等の省力化製品の導入に最大1,500万円(補助率1/2)が支給されます。2026年3月の制度改定で小規模事業者(従業員5人以下)の上限額が引き上げられており、零細企業でも活用しやすくなりました。
M&A(事業統合): 人材ごと事業を取り込む
同業の中小企業をM&Aで統合すれば、人材・顧客・設備を一括で確保できます。人手不足が深刻な業種では、個別に採用するよりM&Aのほうが人材確保のコストが低いケースも珍しくありません。
事業承継・引継ぎ支援センターの2024年の成約件数は2,132件で過去最多を更新。中小企業庁の推計では、国内M&Aの潜在市場規模は約13.5兆円にのぼります。
同業者間のロールアップ(連続的な統合)は、仕入・管理コストの削減とサービスエリアの拡大を同時に実現できます。建設業では地域の工務店が統合して施工管理者を共有し、物流業では運送事業者同士が統合してドライバーの配置を最適化する事例が増えています。再生型M&Aで詳しく解説しています。
事業承継型M&Aで後継者不在と人手不足を同時解決
経営者の高齢化と人手不足を抱える企業同士がM&Aで統合するケースが増えています。後継者不在の企業を、人材確保を目的とした買い手が引き継ぐ形です。事業承継・引継ぎ支援センター(全国47か所、相談無料)に問い合わせてみてください。
離職を防ぐ対策 --- 定着率の向上が生命線
退職型倒産124件の教訓
2025年の従業員退職型倒産124件が示すように、既存従業員の離職が事業継続を直撃するケースが急増しています。採用コストをかけて人を集めても、定着しなければ意味がありません。中小企業1社あたりの中途採用コストは平均84.8万円(リクルート「就職白書2024」)とされており、離職のたびにこのコストが発生します。
離職の3大原因と具体的な対策
厚生労働省「雇用動向調査」によると、離職理由の上位は「賃金」「労働環境(労働時間・休日)」「人間関係」の3つです。賃上げは前述のとおりですが、賃金以外のアプローチも合わせて検討してください。
柔軟な勤務体系の導入は、比較的取り組みやすい施策です。時差出勤や週休3日制(総労働時間は維持して1日の勤務時間を延ばすパターンと、労働時間ごと減らすパターンがある)を選択肢として提示するだけでも、従業員の生活に合った働き方が可能になります。
キャリアパスの明示も見落とされがちです。評価基準と昇給・昇格の条件が不透明な企業では、従業員が「何年働いてもどうなるか分からない」と感じて離職につながります。等級制度・評価制度の整備は、就業規則に明文化することで透明性が担保されます。
経営者と従業員のコミュニケーション機会の確保も欠かせません。月1回の1on1面談、四半期ごとの経営状況の共有、改善提案を受け付ける仕組みなど、「経営に参加している実感」を持てる環境が定着率を高めます。
これらはいずれも大きな投資を必要とせず、経営者の意思決定で実行に移せる施策です。人手不足対策というと採用やDX投資に目が向きがちですが、今いる従業員に長く働いてもらう仕組みづくりが、最もコストパフォーマンスの高い予防策といえます。
まとめ
人手不足倒産を防ぐための対策
- 2025年の人手不足倒産は427件で3年連続過去最多。従業員退職型も124件と急増
- 賃上げ原資の確保: 価格転嫁の交渉と賃上げ促進税制の活用で原資を作る
- 省力化投資: [省力化投資補助金](/hojokin/seisonoryoku-kyouka-hojokin/)(最大1,500万円)を活用し、少ない人数で回す仕組みを構築
- M&A: 人材ごと事業を取り込む。事業承継・引継ぎ支援センターは全国47か所で相談無料
- 離職防止: 賃金だけでなく、勤務体系・キャリアパス・コミュニケーションの改善が急務
人手不足への対策や省力化投資の活用について具体的なご相談がある方は、無料相談からお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 人手不足倒産はどのくらい増えていますか?
- A. 帝国データバンクの調査では、2025年の人手不足倒産は427件で3年連続の過去最多です。従業員退職が直接の原因となった倒産も124件で過去最多を大幅更新しました。建設業(113件)が最多で、全体の約3割を占めています。
- Q. 2024年問題とは何ですか?
- A. 2024年4月から建設業・物流業・医師に時間外労働の上限規制が適用されたことを指します。物流業ではドライバーの労働時間が制限され輸送能力が低下、建設業では施工管理者・技能者不足が深刻化し、人員増が必要にもかかわらず確保困難な状況が続いています。
- Q. 省力化投資に使える補助金はありますか?
- A. 中小企業省力化投資補助金(カタログ型)が利用できます。IoT・ロボット等の省力化製品を導入する際に、従業員数に応じて最大1,500万円(補助率1/2)が支給されます。2026年3月の改定で小規模事業者の上限額が大幅に引き上げられました。
- Q. 特定技能制度で雇用できる業種は?
- A. 建設、介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、飲食料品製造業、外食業、宿泊、農業、漁業、自動車整備、航空、造船・舶用工業の12分野です。2024年に特定技能2号の対象分野が拡大されています。