担保権を止められる最終手段
会社更生法と中小企業|民事再生との違いと実務上の判断基準
会社更生法の概要と中小企業における活用可能性を解説。民事再生法との6つの違い、簡易更生手続き、予納金・費用の目安、中小企業が会社更生を選ぶべきケースの判断基準をまとめました。
中小企業の事業再生で最も多く使われるのは[民事再生法](/jigyou-saisei/minji-saisei-tetsuzuki/)ですが、民事再生では解決できない問題に直面するケースがあります。主要な事業用資産に設定された担保権を止めたい場合、あるいは100%減資を伴う資本構成の変更が必要な場合です。
会社更生法はこうした場面に対応する強力な制度ですが、費用・期間・経営権の制約が大きく、中小企業にとっては「使えるかどうか」の判断が難しい手続きでもあります。本記事では、会社更生法の概要と民事再生法との違いを整理し、中小企業が会社更生を選ぶべき場面の判断基準を解説します。
会社更生法の概要と中小企業にとっての位置づけ
制度の目的と構造
会社更生法(平成14年法律第154号)は、窮境にある株式会社について更生計画を策定し、債権者・株主・担保権者の利害を包括的に調整して事業の維持更生を図る手続です。対象は株式会社のみで、合同会社や個人事業主は利用できません(会社更生法第1条)。
最大の特徴は、担保権を手続に取り込む点にあります。民事再生法では担保権者は原則として担保物件を処分できますが(別除権の行使)、会社更生法では担保権も「更生担保権」として手続に組み入れられ、個別の権利行使が禁止されます(同法第47条)。
経営権の扱い: 管財人とDIP型
経営権については、原則として現経営陣は退陣し、裁判所が選任する更生管財人が経営を代行します。管財人は弁護士が務めるケースが大半で、企業経営の実務に精通した人物が選任されます。
一部の例外としてDIP型(Debtor In Possession、経営陣続投型)の運用もあります。2003年の法改正で導入された制度で、経営陣に不正行為がなく、更生手続の公正な遂行が期待できる場合に認められます。ただし適用は極めて限定的です。過去のDIP型の代表例としてはスカイマークの会社更生(2015年)が知られており、運航を継続しながらスポンサー選定を進めた事例として注目されました。
費用と期間の目安
中小企業にとって最大のハードルは費用です。予納金の目安は負債総額によって異なりますが、一般的に2,000万円以上、大規模案件では数千万円から1億円を超えるケースもあります。これに加えて弁護士費用(申立代理人)が別途500万〜2,000万円程度かかります。
手続期間は更生計画の認可決定まで1〜3年が標準的で、計画の遂行期間を含めると5〜10年に及ぶこともあります。民事再生法の手続期間(半年〜1年)と比較すると、経営資源の拘束期間が格段に長い点は認識しておく必要があります。
民事再生法との比較と使い分け
6項目の比較
| 項目 | 会社更生法 | 民事再生法 |
|---|---|---|
| 対象 | 株式会社のみ | 法人・個人 |
| 経営陣 | 退陣(管財人が経営) | 原則続投(DIP型) |
| 担保権 | 手続に取り込み(別除権行使不可) | 原則として別除権行使可能 |
| 費用(予納金) | 2,000万円〜 | 200万円〜 |
| 期間 | 1〜3年以上 | 半年〜1年 |
| 株主の権利 | 100%減資が可能 | 株主の権利は存続 |
| 計画の可決要件 | 債権者区分ごとの多数決 | 過半数かつ債権額の1/2以上 |
中小企業にとって特に大きな違いは3点です。費用面では予納金が10倍以上の差があり、経営権は会社更生だと社長が退任させられます。期間も2〜3倍かかるため、この負担に見合うメリットがなければ、民事再生法を選ぶのが合理的です。
使い分けの基本方針
実務上の判断は「担保権を止める必要があるかどうか」に集約されます。事業用不動産や工場設備に金融機関の担保が設定されており、担保権の実行(競売)が事業継続を不可能にするケースでは、会社更生法が唯一の選択肢になり得ます。
一方、担保権の問題がなく、金融機関との個別交渉でリスケジュールや債権カットの合意が得られる見込みがあれば、コスト・期間の面で民事再生法が圧倒的に有利です。さらに、金融機関のみの私的整理で解決できるなら、取引先への影響を回避できる中小企業活性化協議会の利用が第一選択肢になります。
簡易更生手続き: 書面決議による期間短縮
会社更生法第209条以下に定められた簡易更生手続きは、更生計画案について届出更生債権者の議決権総額の5分の4以上の同意がある場合に、関係人集会を省略できる制度です。
大規模な集会手続を省略することで、通常の更生手続と比較して数か月単位の期間短縮が見込めます。債権者の構成がシンプルで、主要な債権者(メインバンクなど)の事前同意が得られている場合に活用されます。実務上は、スポンサーが早期に確定しており、更生計画案の内容が固まっている案件で利用される傾向にあります。
少額更生債権の早期弁済制度(会社更生法第211条)もあわせて活用することで、小口の取引先債権者を更生計画認可前に弁済できます。取引先への影響を最小限に抑える実務上の措置として機能しており、事業価値の毀損防止に寄与します。
中小企業が会社更生を選ぶべきケース
判断基準は「担保権の阻止」と「資本構成の変更」
中小企業が会社更生法を選択すべき場面は限られています。実務上、検討に値するのは以下の3つのケースです。
担保権の行使を阻止しなければ事業が継続できない場合。工場、店舗、主要な機械設備など、事業継続に不可欠な資産に担保が設定されており、民事再生法のもとでは担保権者に処分されてしまうケースです。たとえば、製造業で本社工場の土地・建物に根抵当権が設定されており、金融機関が担保権の実行を示唆している場合、民事再生法では担保実行を止められないため、会社更生法を検討する必要があります。
100%減資を伴う資本構成の変更が必要な場合。オーナー株主の排除や、新たなスポンサーに株式の全部を取得してもらうための既存株式の消却が必要な場面です。民事再生法では株主の権利が存続するため、株主が計画に反対すると再建が進みません。スポンサーが「既存株主を完全に排除することが支援の条件」とする場合に該当します。
債権者・株主・担保権者の利害が複雑に絡み合い、包括的な調整が必要な場合。複数の金融機関が異なる条件で担保を設定しており、担保権者間の優先順位に争いがあるケースなどです。個別交渉では合意形成が困難で、裁判所の関与による包括的な利害調整が必要な場面で会社更生法が力を発揮します。
中小企業では年間10件程度
会社更生の新規申立件数は年間全国で10件前後にとどまります。管轄は東京地裁・大阪地裁が中心です。中小企業にとっては費用・期間・経営権喪失の負担が過大であり、大半のケースでは民事再生法または私的整理(中小企業活性化協議会、事業再生ADR)が実務上の主流です。
中小企業に適した代替手段と相談先
私的整理が第一選択
担保権の問題がなく、主要な金融機関との協議でまとまる見込みがある場合は、中小企業活性化協議会を活用した私的整理が最適です。裁判外の手続きのため非公開で進められ、取引先や従業員への影響を最小化できます。費用は無料(国の委託事業)で、2024年度の再生支援完了件数は708件にのぼります。
事業再生ADRは、私的整理と法的整理の中間に位置する手続きで、中立的な第三者(手続実施者)が関与します。2025年施行の早期事業再生法では、再生計画の可決要件が従来の全員同意から4分の3多数決に緩和され、私的整理の実効性が高まりました。
民事再生法のメリット
民事再生法は、経営陣が退陣せずに再建を進められる点が中小企業に適しています。予納金は200万円〜と会社更生の10分の1以下で、手続期間も半年〜1年と短期です。債権者の過半数かつ債権額の2分の1以上の同意があれば再生計画が可決されます(民事再生法第172条の3)。
弁護士費用の目安は、負債総額1億円未満の中小企業で200万〜500万円程度が一般的です。予納金と合わせて500万〜1,000万円の範囲に収まるケースが多く、会社更生と比較すると費用面のハードルは格段に低くなります。
手続き選択のフローチャート
手続き選択の判断は段階的に進めます。金融機関のみの債務問題であれば中小企業活性化協議会で私的整理を検討し、取引先債権者を含む法的整理が必要ならば民事再生法を軸に考えます。そのうえで、担保権の阻止が不可欠な場合にのみ、会社更生法を検討する流れです。いずれの手続きでも、初期段階で事業再生に精通した弁護士の助言を受けることが再建の成否を左右します。
まとめ
会社更生法と中小企業の判断基準
- 会社更生法は担保権を手続に取り込み、行使を阻止できる強力な制度
- 予納金2,000万円以上、経営陣退陣、期間1〜3年と中小企業には負担が大きい
- 中小企業の利用は年間10件程度。大半は民事再生または私的整理が適切
- 会社更生を選ぶべき場面: 事業用資産の担保権阻止、100%減資、複雑な利害調整
- まずは中小企業活性化協議会(無料)に相談し、適切な手続きを見極める
事業再生の手続き選択について具体的なご相談がある方は、無料相談からお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 中小企業でも会社更生法は使えますか?
- A. 法律上は株式会社であれば規模を問わず利用可能です。ただし予納金が2,000万円以上、経営陣は原則退陣、手続期間が1〜3年と負担が大きく、中小企業での利用は年間全国で10件前後と極めて限定的です。多くの中小企業には民事再生法の方が適しています。
- Q. 会社更生法と民事再生法の最大の違いは何ですか?
- A. 最大の違いは担保権の扱いです。民事再生法では担保権者は原則として別除権を行使でき(担保物件を処分できる)、会社更生法では担保権も手続に取り込まれて行使が制限されます。工場や主要な事業用資産に担保が設定されている場合、会社更生法でなければ事業継続が困難なケースがあります。
- Q. 簡易更生手続きとは何ですか?
- A. 更生計画案について、届出更生債権者の議決権総額の5分の4以上の同意がある場合に、関係人集会を省略して書面決議で計画を認可できる手続です(会社更生法第209条)。大規模な集会手続を省略でき、期間短縮・費用削減に寄与します。
- Q. 会社更生と破産の違いは?
- A. 会社更生は事業を継続しながら再建を図る手続です。破産は事業を停止して財産を換価・配当する清算型の手続です。会社更生では更生計画に基づいて債務をカットしつつ事業を継続できますが、破産では原則として事業が消滅します。