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受注側が入金を守る法律

(更新: ) 13分で読める

下請法(取適法)

下請法は2026年1月1日に中小受託取引適正化法(取適法)へ改称・改正されました。自社の取引が対象かの判定、委託事業者の4つの義務と11の禁止行為、新設された従業員基準と手形払いの禁止までを、受注側の立場で整理します。

納品したのに支払いが先延ばしにされる。発注後に一方的な値下げを求められる。原材料費が上がったのに価格協議に応じてもらえない。取引先との力関係で言い出せないまま、資金繰りだけが苦しくなる。

こうした場面で中小企業を守るのが、かつて下請法と呼ばれていた法律です。2026年1月1日、この法律は「中小受託取引適正化法(取適法)」に改称され、中身も改正されました。

正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。1956年に独占禁止法の補完法として制定され、公正取引委員会と中小企業庁が運用しています。

この記事は、発注側が違反を避けるための解説ではなく、受注側が自社の入金と価格を守るために使う道具として整理します。

2026年1月の改正で何が変わったか

法律名だけでなく、当事者の呼び方も変わりました。条文を参照するときは、新旧のどちらの番号を見ているかに注意してください。

項目改正前(下請法)改正後(取適法)
正式名称下請代金支払遅延等防止法製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
略称下請法取適法
発注側親事業者委託事業者
受注側下請事業者中小受託事業者
代金下請代金製造委託等代金
支払期日第2条の2第3条
発注内容の明示第3条(書面交付)第4条
禁止行為第4条第5条
遅延利息第4条の2第6条
書類の作成・保存第5条第7条
相談窓口下請かけこみ寺取引かけこみ寺

中身の改正で、受注側にとって意味が大きいのは次の4点です。

  • 常時使用する従業員の数による基準が新設され、資本金が小さい会社との取引も対象になりうる
  • 納品に必要な運送を委託する特定運送委託が、対象取引に追加された
  • 手形での支払いが禁止された
  • 協議に応じない一方的な代金決定が禁止された

自社の取引が対象かどうか

取適法はすべての事業者間取引に適用されるわけではありません。判定は2段階です。

対象かどうかは、2段階で見る1 委託の種類にあてはまるか製造委託/修理委託/情報成果物作成委託役務提供委託/特定運送委託(2026年に追加)2 当事者の規模要件を満たすかまず資本金基準で判定する資本金基準が適用されない場合に従業員基準を見る両方を満たすときだけ、取適法が適用される
従業員基準は資本金基準と並列ではない。資本金基準が適用されない場合に適用される、という順序になっている

規模要件は、委託の種類によって2通りに分かれます。

a. 物品の製造・修理・特定運送委託、および政令で定める情報成果物作成・役務提供委託

政令で定める情報成果物はプログラム、政令で定める役務は運送・物品の倉庫における保管・情報処理です。

委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
常時使用する従業員300人超の法人常時使用する従業員300人以下(個人を含む)

b. 情報成果物作成・役務提供委託(政令で定めるものを除く)

委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
常時使用する従業員100人超の法人常時使用する従業員100人以下(個人を含む)

従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。 公正取引委員会と中小企業庁が公表しているテキストに、この順序が明記されています。

従業員基準で委託事業者になるのは法人に限られ、受注側は個人でも法人でも中小受託事業者になりえます。実務上の意味は、資本金を小さく設定したまま従業員数の多い法人が、新たに委託事業者として規制の対象になりうる点です。改正前は資本金だけで判定していたため、資本金1千万円の会社が数百人規模で発注していても対象外でした。

なお個人事業主も中小受託事業者として保護の対象になります。

委託事業者に課される4つの義務

義務は発注側にかかりますが、受注側から見れば「してもらえること」です。

4つの義務を、受注側から見ると発注内容の明示(第4条)発注内容が明示される支払期日を定める(第3条)入金日が60日以内に決まる書類の作成・保存(第7条)取引記録が2年間残る遅延利息の支払(第6条)遅れたら年14.6%を請求いずれも取適法が適用される取引での話
義務の名前は発注側の行為だが、受注側にとっては請求できる中身になる。条番号は2026年の改正後のもの

発注内容の明示義務(第4条)

委託事業者は発注時に給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法などを明示しなければなりません。改正で電磁的方法による明示が原則として可能になり、受注側が書面を求めたときは遅滞なく交付する必要があります。

口頭の発注だけで作業に着手すると、後から内容や代金をめぐって争いになります。明示がないまま進んでいるなら、交付を求めてください。

支払期日を定める義務(第3条)

受領した日から起算して60日以内かつできる限り短い期間内に支払期日を定めることを求めます。条文は「検査をするかどうかを問わず」と明記しており、検収が終わっていないことを理由に支払期日を後ろへずらすことはできません。

書類の作成・保存義務(第7条)

委託事業者は取引の記録を作成し2年間保存します。ただし受注側も、発注書・見積書・検収書・メールを自社で保管しておくべきです。争いになったとき機能するのは、手元に残っている記録です。

遅延利息の支払義務(第6条)

受領日から60日を経過した日から支払日までの期間について、遅延利息を課します。率は公正取引委員会規則で年14.6%と定められており、改正にあわせて規則も全部改正されましたが、率そのものは据え置かれました。

11の禁止行為

禁止行為は第5条にまとまっています。第1項に7つ、第2項に4つで、合計11項目です。

条項禁止行為内容
第5条第1項第1号受領拒否受注側の責めに帰すべき理由がないのに受領を拒む
第1項第2号支払遅延支払期日を過ぎても支払わない。手形の交付、現金化が困難な支払手段の使用を含む
第1項第3号減額責めに帰すべき理由がないのに代金を減らす
第1項第4号返品責めに帰すべき理由がないのに引き取らせる
第1項第5号買いたたき通常の対価に比べ著しく低い代金額を不当に定める
第1項第6号購入・利用強制指定する物の購入や役務の利用を強制する
第1項第7号報復措置公正取引委員会等への申告を理由に不利益な取扱いをする
第2項第1号有償支給原材料等の対価の早期決済支払期日より早い時期に原材料費を控除・支払わせる
第2項第2号不当な経済上の利益の提供要請自己のために金銭・役務等を提供させる
第2項第3号不当な給付内容の変更・やり直し責めに帰すべき理由がないのに変更・やり直しをさせる
第2項第4号協議に応じない一方的な代金決定費用変動などで協議を求められたのに応じず、一方的に代金額を決める

数は11のままですが、中身が入れ替わっています。旧法で独立していた「割引困難な手形の交付」は第1項第2号のかっこ書きに統合され、代わりに第2項第4号が新設されました。

受注側が実際に持ち出す機会が多いのは、支払遅延・減額・買いたたき・協議拒否の4つです。発注後の一方的な値下げは、受注側が同意していても違法になりうる点は押さえておいてください。

手形払いの禁止は、資金繰りの構造を変える

改正のなかで、中小企業のキャッシュフローに最も直接効くのが手形払いの禁止です。

手形での支払いは、3段階で締まってきた2024年10月まで繊維業90日・その他120日が指導基準2024年11月から業種を問わずサイト60日超は指導対象2026年1月から手形の交付そのものが禁止電子記録債権なども、期日までに現金化が困難なら同じ扱い
手形払いの規制は2026年に始まったものではない。2024年11月にサイトの指導基準が60日へ短縮され、そのうえで交付自体が禁止された

支払期日に手形を渡され、そこからさらにサイトの期間だけ現金化を待つ取引は、長く一般的でした。受注側は、その間の資金を割引や借入で埋めるしかありませんでした。

規制は段階的に強まっています。公正取引委員会の指導基準は昭和41年以降、繊維業90日・その他の業種120日でしたが、令和6年4月30日の通知で業種を問わず60日に変更され、令和6年11月1日から適用されています。

そのうえで2026年1月からは、手形の交付そのものが支払遅延として禁止されました。電子記録債権や一括決済方式であっても、支払期日までに現金化することが困難なものは同じ扱いです。

自社が対象取引に当たるなら、手形で受け取っている前提で組んでいた資金繰り計画は、組み直す余地があります。 現金化までの日数が縮めば、必要な運転資金の額そのものが下がります。

入金予定を法律から逆算する

取適法が適用される取引では、入金日は交渉の産物ではなく法律の枠内で決まります。受領日から60日以内、かつできる限り短い期間内です。

支払期日を定めなかった場合は受領日が支払期日とみなされ、60日を超える期日を定めた場合は受領日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。定めがないほうが発注側に有利になる設計にはなっていません。

この枠を使って、売掛債権の入金予定を引き直せます。実際の入金がその枠から外れているなら、遅延利息を含めて請求できる状態にあるということです。

原材料費や人件費が上がったのに価格が据え置かれている場合は、第5条第2項第4号が交渉の根拠になります。協議を求めたのに応じてもらえない、説明も情報提供もないまま金額を決められた、という事実そのものが禁止行為に当たります。

それでも入金の遅れが資金繰りを圧迫する場合は、未収金の買取による早期資金化という選択肢もあります。まずは資金繰り表で、どの取引の遅れがどの月に効いているかを可視化してください。

対象外の取引だった場合

規模要件を満たさず取適法の対象にならない取引でも、支払遅延や一方的な減額が許されるわけではありません。

取適法は独占禁止法の補完法として作られています。公正取引委員会・中小企業庁のテキストによれば、代金の支払遅延などの行為は、もともと独占禁止法が禁じる不公正な取引方法のうち優越的地位の濫用に当たり、同法第19条に違反するおそれのある行為です。

ただし独占禁止法で規制するには、その行為が取引上優越した地位を利用したものか、不当に不利益なものかを個別に認定する必要があります。認定には相当の期間がかかり、問題解決の時機を逸したり、継続的な取引関係をかえって悪化させたりすることがあります。

そこで、規制対象に当てはまる取引の発注者をはじめから優越的地位にあるものとして扱い、迅速に規制できるようにしたのが取適法です。

ただし対象外の取引に取適法がそのまま及ぶわけではありません。明確な義務と禁止類型、遅延利息、勧告という簡易で速い手続きが使えるのは、対象になる取引だけです。 対象外では、優越的地位や不利益性を個別に認定してもらう必要があります。

対象外の取引で不当な扱いを受けた場合も、公正取引委員会への相談は可能です。

また、自社が業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人であれば、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の対象になります。取適法の規模要件を満たさない場合でも、こちらで保護される余地があります。

受注側が手元に残しておくもの

書類の作成・保存義務は委託事業者側にかかりますが、いざ主張するときに使えるのは自社に残っている記録です。取適法を持ち出す場面では、次の4つが揃っているかどうかで話の進み方が変わります。

  • 発注時に明示された内容(給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法)が分かるもの
  • 受領日が特定できるもの。支払期日はこの日から起算するため、起点が曖昧だと遅延を主張できない
  • 価格協議を求めたことと、それに対する相手の反応が分かるやり取り
  • 支払期日と、実際に入金された日の記録

価格協議のやり取りは、第5条第2項第4号を持ち出すときの前提になります。受領日と実入金日さえ押さえてあれば、遅延利息の計算はその場でできます。

違反されたときにどこへ行くか

公正取引委員会は、第5条に違反する行為があると認めるときは委託事業者に勧告を行います。勧告では、代金や遅延利息の支払い、返品した物の引き取り、買いたたきをした金額の引き上げなどが求められ、事業者名が公表されます。

罰則もあります。発注内容を明示しなかった場合、書面交付を求められたのに交付しなかった場合、書類を作成・保存しなかった場合や虚偽の書類を作成した場合は、50万円以下の罰金です(第14条)。

相談先は2つあります。公正取引委員会と、中小企業庁および各経済産業局です。中小企業庁は全国48か所に取引かけこみ寺を設置しており、窓口相談のほか弁護士相談も利用できます。改正前の「下請かけこみ寺」から名称が変わりました。

申告したことを理由に取引を減らされたり停止されたりする報復措置は、それ自体が禁止行為(第5条第1項第7号)です。相談したことで不利益を受けた場合も、あわせて申告できます。

この記事の要点

  • 下請法は2026年1月1日に中小受託取引適正化法(取適法)へ改称・改正された。条番号も支払期日が第3条、禁止行為が第5条へ変わっている
  • 適用は2段階で判定する。委託の種類にあてはまり、かつ規模要件を満たす場合のみ。従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用される
  • 委託事業者には4つの義務。支払期日は受領日から60日以内で、検査をするかどうかを問わない(第3条)
  • 禁止行為は11項目。手形の交付が支払遅延に統合され、協議に応じない一方的な代金決定が新設された
  • 遅延利息は改正後も年14.6%。相談窓口は「取引かけこみ寺」(全国48か所)に名称変更

取適法は、力関係で押し切られやすい取引に、法律の側から下限を引いてくれる仕組みです。自社の取引が対象かどうかを一度確認しておくだけでも、入金と価格の交渉に使える材料が変わります。

なお個別の取引が適用対象に当たるか、特定の行為が禁止行為に該当するかの判断は、取引の実態によって変わります。判断に迷う場合は、公正取引委員会・取引かけこみ寺、または弁護士にご相談ください。

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参考にした公式情報

条文・数値は、次の公開情報を直接確認して記載しています。取適法は2026年1月1日に施行されたばかりで、運用基準や勧告事例は今後蓄積されていきます。実務で判断する際は最新の公表内容をあわせてご確認ください。

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