財務改善ナビ
資金調達

株式を薄めない借入という選択

10分で読める

ベンチャーデットの仕組みと中小企業の活用判断|株式希薄化を抑える成長資金の選択肢【2026年版】

ベンチャーデットの仕組みを銀行融資・日本政策金融公庫・エクイティと比較し、中小企業が成長資金として使えるかどうかの判断軸を整理。国内提供事業者の最新動向、利用タイミング、コベナンツの注意点まで2026年版で解説します。

ベンチャーデットは、成長段階にある企業を対象とした借入型の資金調達手法です。通常の銀行融資では評価されにくい「将来の成長性」を審査基準に含めるため、赤字段階や急成長期の企業でも融資を受けられる可能性がある点が特徴です。

もともと米国のシリコンバレーで発達した手法ですが、日本でも2020年代に入って専門事業者やメガバンクの参入が相次ぎ、選択肢が増えています。2025年にはFlex Capital(運営: Fivot)の累計融資額が120億円を突破し、琉球銀行やりそな銀行も新たにベンチャーデットファンドを組成するなど、市場の拡大が続いています。

ただし、ベンチャーデットは資金調達手段のひとつに過ぎません。銀行融資日本政策金融公庫、エクイティファイナンスのどれが自社に合うかは、企業のステージや財務状況によって異なります。本記事では、ベンチャーデットの仕組みを解説したうえで、他の調達手段との使い分け基準を整理します。

ベンチャーデットの基本的な仕組み

ベンチャーデットは、融資と新株予約権(ワラント)の付与を組み合わせた金融商品です。融資として返済義務のある資金を提供する一方、ワラントによって将来のIPOやM&A時のアップサイドリターンを確保する構造になっています。

融資額の目安は、直近のエクイティラウンドで調達した金額の20%から30%程度です。シリーズAで5億円を調達した企業であれば、ベンチャーデットで1億円から1.5億円程度の融資を受けられる可能性があります。

ワラントカバレッジ(融資額に対するワラントの割合)は5%から20%程度で設定されることが多く、行使価格は直近ラウンドの株価と同等かそれに近い水準です。ワラントの存在により金利が商業融資より低くなるケースがある反面、株式の希薄化が発生します。

返済期間は2年から4年が一般的で、据置期間(元本返済猶予期間)が6ヶ月から12ヶ月設けられます。据置期間中は利息のみの支払いとなるため、キャッシュフローへの影響を抑えながら事業投資に集中できる設計です。

なお、Flex Capitalのようにワラントを付与しない「ピュアデット型」のサービスも登場しています。希薄化がゼロになる代わりに金利はやや高めに設定されており、株式の希薄化を特に避けたい経営者に選ばれています。

4つの資金調達手段の比較フレームワーク

中小企業やスタートアップが成長資金を確保する手段は、大きく4つに分けられます。それぞれの特性を理解したうえで、自社のステージと目的に合った組み合わせを選ぶことが重要です。資金調達方法の比較も併せて確認してください。

比較項目ベンチャーデット銀行融資日本政策金融公庫エクイティ(VC出資)
金利の目安年5%〜15%年1%〜3%年0.5%〜3%なし(配当を除く)
返済義務あり(2〜4年)あり(5〜10年)あり(5〜20年)なし
株式の希薄化小(5〜20%のワラント)なしなし大(10〜30%の新株発行)
審査基準成長性・KPI実績決算書の格付け事業計画・返済能力市場規模・成長性
赤字企業の利用可能(条件あり)困難条件付きで可能可能
調達スピード1週間〜1ヶ月1〜2ヶ月3週間〜1ヶ月3〜6ヶ月
向いている企業PMF達成後のスタートアップ黒字で安定成長の中小企業創業期〜成長期の中小企業急成長を目指すスタートアップ

この比較表を見るとわかるように、ベンチャーデットは銀行融資とエクイティの中間に位置する調達手段です。銀行融資ほど保守的ではないが、エクイティほど希薄化しない。その代わり、銀行融資より金利は高く、エクイティのように返済免除はありません。

VCからの出資を想定していない中小企業の場合

「ベンチャーデット」という名称からスタートアップ専用の印象を受けますが、売上が立っている成長企業であれば活用の余地があります。特に以下のような状況では、銀行融資や公庫融資だけでは対応しきれない資金ギャップを埋める手段として機能します。

  • 急成長に伴う運転資金の増加に、銀行の審査スピードが追いつかない場合
  • 赤字決算が続いており、銀行の格付けでは希望額の融資が出ない場合
  • 信用保証協会の保証枠を使い切っている場合
  • 事業計画の実現性は高いが、担保に充てる不動産や在庫がない場合

こうしたケースでは、まず日本政策金融公庫の資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)を検討し、それでもカバーできない部分にベンチャーデットを活用するのが現実的な順序です。公庫の資本性ローンは金融検査上の自己資本とみなされるため、BS改善効果もあります。

中小企業向けの判断軸——3問チェック

ベンチャーデットを検討する前に、自社の状況を3問で確認します。

確認項目YES → ベンチャーデット検討の余地ありNO → 別手段優先
直近12ヶ月のARR・MRR・粗利のいずれかが前年比+30%以上ベンチャーデット側が成長性で評価可能銀行融資・公庫を先に検討
銀行と公庫の枠を使い切っている、または希望額に対して半分以下しか出ない不足分の補完手段として有効銀行・公庫で十分なら金利の低い方を優先
ワラント発行(5〜20%)または高金利(5〜15%)を許容できる事業計画株式希薄化と金利負担を経済合理的に吸収可能リスクが過大なため見送り

3問すべてYESなら、本記事後半の事業者比較とコベナンツ確認に進む価値が高い局面です。1問でもNOなら、まずは銀行融資・公庫融資・エクイティの組み合わせを再検討してください。

ベンチャーデットを検討すべきタイミング

ベンチャーデットの利用が最も効果的なのは、以下の3つの局面です。

ひとつ目は、エクイティラウンドの間のブリッジファイナンスとして活用する場面です。次回のラウンドまでのランウェイ(手元資金で事業を継続できる期間)が短くなると、不利な条件での出資を受け入れざるを得なくなります。ベンチャーデットでランウェイを6ヶ月から12ヶ月延ばし、十分な実績を積んだうえで次回ラウンドに臨むことで、交渉力を維持できます。

ふたつ目は、特定の成長投資に対する資金需要がある場面です。新規拠点の開設、大型の設備投資、大口顧客への対応に必要な運転資金など、使途が明確で回収の見通しが立つ投資には、エクイティで希薄化させるより借入で対応する方が合理的です。

みっつ目は、月次の売上(MRR/ARR)が一定水準に達し、事業モデルの再現性が見えてきた段階です。Coral Capitalのインタビュー記事によれば、MRR(月次経常収益)が500万円から1,000万円程度が国内ベンチャーデットの利用目安とされています。プロダクトマーケットフィット(PMF)の達成前は、返済義務のある資金を調達するリスクが高すぎます。

利用を避けるべきケース

売上の見通しが立たない段階、コスト削減のための延命資金としての利用、既存借入の返済に充てるための借り換えなど、返済原資の見込みがないまま調達するのは避けてください。ベンチャーデットには返済義務があり、エクイティとは異なりダウンサイドリスクを経営者が負います。

国内のベンチャーデット提供事業者(2025年以降の動向)

日本国内のベンチャーデット市場は、2025年を境に参入事業者が急増しています。主な提供者を整理します。

銀行系では、あおぞら企業投資(あおぞら銀行グループ)が国内ベンチャーデットの草分けとして知られています。2025年2月にはHYBRID ANNEX1号ファンドを日本政策投資銀行グループと共同で設立しました。みずほキャピタル、三井住友銀行のグロースファイナンス、りそな銀行も専用プログラムを展開しています。りそな銀行は2025年11月にFivotと共同でRFC Venture Debt Fund 1号を組成し、本格参入しました。

地方銀行の参入も進んでおり、静岡銀行、横浜銀行、東京スター銀行、名古屋銀行、山梨中央銀行が取り扱いを開始しています。2025年9月には琉球銀行がBORベンチャーデットの名称で新規参入し、ミドル期以降のスタートアップを対象に2億円以下の融資を提供しています。

独立系では、Flex Capital(運営: Fivot)がワラントなしのピュアデット型で累計融資額120億円、融資先300社以上の実績を持ちます(2025年10月時点)。Fivotは2025年11月にシリーズBで20億円を調達し、AI与信モデルの開発を加速しています。SDFキャピタル、UPSIDER BLUE DREAM Growth Fundなども活動しています。

金融庁も2025年3月にデロイト トーマツへ委託した「諸外国のベンチャーデットの取組に関する調査報告書」を公表しており、制度面での環境整備が進んでいます。

各事業者の比較ポイント

融資条件(金利、ワラントカバレッジ、融資限度額、返済期間、コベナンツの内容)は事業者ごとに異なります。複数の事業者から条件を取り寄せて比較してください。既存のVCやメインバンクからの紹介があると、条件面で有利になるケースもあります。

2026年の市場動向——ベンチャーデットの「定着期」へ

2025年に開催された「ベンチャーデットサミット」には約250名のスタートアップ・金融関係者が参加し、2026年2月には第2回が「ベンチャーデットの真実と新潮流」をテーマに開催されました。商工中金をはじめとする政府系金融機関の参入が、制度としての信頼性を高めています。

2026年に入り、市場はいくつかの変化を見せています。

IPO環境の変化と資本効率への意識の高まりから、「エクイティに依存しない資金調達の多角化」がスタートアップの常識になりつつあります。エクイティラウンドの前後にベンチャーデットを組み合わせる「ハイブリッド調達」の事例が増えてきました。

商工中金がベンチャーデット分野に本格参入したことも注目すべき動きです。商工中金は中小企業向け政府系金融機関として全国に拠点を持つため、地方のスタートアップにとってもアクセスしやすい窓口になります。

SaaS企業やサブスクリプションモデルの企業にとっては、MRR(月次経常収益)を担保のように評価するレベニューベースドファイナンス(RBF)型のベンチャーデットが広がっています。Flex Capitalのように、売上データとAI与信モデルに基づいて融資判断を行うサービスが増えており、審査のスピードと透明性が向上しています。

一方、金融庁が2025年3月に公表した「諸外国のベンチャーデットの取組に関する調査報告書」では、米国やイスラエルの先行事例をもとに制度設計の検討が進んでいることが示されました。今後は会計上の取り扱い(資本性ローンとの区分)や、ワラントに関する開示基準の整備が進むと予想されます。

コベナンツとワラントの注意点

ベンチャーデットの契約には、通常の銀行融資にはない特有のリスクがあります。契約前に弁護士を交えて確認すべきポイントを整理します。

コベナンツ(財務制限条項)として、売上成長率の最低基準、キャッシュバーンレートの上限、追加調達の義務、特定のKPI水準の維持などが設定されるのが一般的です。これらに抵触するとデフォルト事由に該当し、期限の利益を喪失して一括返済を求められるリスクがあります。

ワラントの行使条件についても慎重に検討が必要です。行使価格の設定水準、行使期間の長さ、IPO時の自動行使条項、M&A時のみなし行使条項、希薄化防止条項(アンチダイリューション)の有無など、将来のイグジットや追加調達に大きな影響を与える条項が含まれます。

特にM&A時のみなし行使条項は、買収価格の交渉に直接影響するため、出口戦略としてM&Aを視野に入れている場合は条件を慎重に詰めてください。

まとめ

要点

  • ベンチャーデットは銀行融資とエクイティの中間に位置する調達手段。金利は高いが希薄化を抑えられる
  • 2025年以降、メガバンク・地銀・独立系の参入が加速し、中小企業でも利用できるサービスが登場している
  • まず銀行融資・公庫融資を検討し、カバーしきれない資金ギャップにベンチャーデットを組み合わせるのが現実的
  • コベナンツやワラント条件は将来の経営判断に大きく影響するため、弁護士を交えた事前確認が不可欠

ベンチャーデットの活用や資金調達の全体設計について専門家への相談をご希望の場合は、無料相談からお問い合わせください。

よくある質問

Q. ベンチャーデットと通常の銀行融資の違いは何ですか?
A. ベンチャーデットは成長段階のスタートアップに特化した融資商品で、新株予約権(ワラント)の付与を条件とする場合が多い点が通常の融資と異なります。赤字段階でも将来の成長性を評価して融資を行うため、審査基準も銀行融資とは異なります。一方、銀行融資は決算書の格付けをもとに審査を行い、金利は年1%から3%程度と低いものの、赤字や債務超過の企業には対応が難しい傾向があります。
Q. ベンチャーデットの金利はどのくらいですか?
A. 年利5%から15%程度が一般的で、銀行融資と比べると高めに設定されています。ワラント(新株予約権)の発行条件によっては金利が低く設定される場合もあり、金利とワラントの比率は個別の交渉で決まります。ワラントなし(ピュアデット型)のサービスでは金利がやや高めになるのが通常です。
Q. ベンチャーデットは中小企業でも利用できますか?
A. 従来はVC出資を受けたスタートアップが主な対象でしたが、2025年以降はFlex Capitalなど一部の事業者がサービス対象を売上のある中小企業にも拡大しています。ただし、一定の売上実績や成長性が求められるため、創業直後や赤字が続いている段階では利用が難しい場合があります。銀行融資や公庫融資を先に検討し、それでもカバーしきれない資金需要にベンチャーデットを組み合わせる考え方が現実的です。
Q. ベンチャーデットの返済が困難になった場合はどうなりますか?
A. コベナンツに抵触した場合、期限の利益を喪失し一括返済を求められる可能性があります。返済困難が見込まれる段階で早期に貸付事業者と交渉し、返済条件の変更(リスケジュール)を協議することが重要です。銀行融資と異なり、ベンチャーデットのリスケジュールは前例が少ないため、契約前にコベナンツの内容を慎重に確認してください。
Q. ワラント(新株予約権)の希薄化はどの程度ですか?
A. ワラントカバレッジは融資額の5%から20%程度が一般的です。たとえば1億円のベンチャーデットでワラントカバレッジが10%であれば、1,000万円分の新株予約権が発行されます。VCからの出資による希薄化(10%から30%程度)と比較すると影響は限定的ですが、累積すると無視できない割合になるため、複数回の利用を想定する場合は注意が必要です。

もっと読む

資金調達の候補を条件で絞る

融資、保証、補助金、資本性ローンを、必要時期・返済条件・審査資料で比較します。

候補を確認する