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のれんの正体を数字で掴む

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のれん(営業権)の計算方法と税務処理

M&Aにおけるのれん(営業権)の計算方法と税務上の取り扱いを解説。会計上ののれんと税務上の資産調整勘定の違い、償却方法、中小企業が注意すべきポイントをまとめました。

M&Aの交渉において、のれん(営業権)の金額は売買価格を左右する最も重要な要素の一つです。のれんとは、買収価額が被買収企業の時価純資産額を超える部分のことで、ブランド力、顧客基盤、人材、ノウハウなどBS上に表れない無形の経営資源を金額で表現したものといえます。

中小企業のM&Aでは、のれんの評価をめぐって売り手と買い手の認識が食い違い、交渉が難航するケースが少なくありません。本記事では、のれんの計算方法、会計処理と税務処理の違い、中小企業が押さえるべき実務上のポイントを解説します。

のれんの基本的な算出方法

のれんは、買収価額から被買収企業の時価純資産額を差し引いて算出します。たとえば、時価純資産が5,000万円の企業を8,000万円で買収した場合、差額の3,000万円がのれんに該当します。

中小企業のM&Aで用いられるのれんの算定方法は、主に次の3つです。

年買法(年倍法)は、中小企業M&Aで最も一般的に使われる方法です。直近の営業利益経常利益の2年分から5年分をのれんとして加算します。どの利益指標を用い、何年分とするかは業種や企業の特性によって異なります。安定した収益を上げている企業ほど年数が多く評価される傾向にあり、経営者個人の能力に依存する事業は低く評価されがちです。

超過収益法は、業界の標準的な収益率を上回る部分(超過収益)を一定期間分合計してのれんを算出する方法です。たとえば、同業他社の平均的なROA(総資産利益率)が3%のところ、対象企業が8%であれば、その差の5%分に相当する利益を数年分合計してのれんとします。業界標準との比較に基づくため、対象企業固有の強みを反映しやすいという特徴があります。

DCF法の応用として、将来のフリーキャッシュフローの現在価値から時価純資産を差し引いてのれんを逆算する方法もあります。将来の事業計画が前提となるため、計画の精度が評価の信頼性を左右します。中小企業では事業計画の策定が十分でないことも多く、補助的に用いるのが現実的です。

会計上ののれんの取り扱い

日本の会計基準(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」)では、のれんは資産として計上し、20年以内のその効果が及ぶ期間にわたって定額法で償却します。中小企業の場合、中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)においても同様の取り扱いとなっています。

償却期間の決定にあたっては、のれんを構成する要因の持続性を検討します。顧客基盤の平均取引期間、技術の陳腐化までの期間、ブランドの持続力などを個別に分析し、合理的な年数を設定する必要があります。中小企業のM&Aでは、実務上5年から10年の償却期間を設定するケースが多いです。

のれんの償却費は、毎期の損益計算書に費用として計上されます。買い手にとっては、のれんの金額が大きいほど毎期の償却負担が増え、買収後の利益を圧迫する要因となります。そのため、買収価格の交渉においては、のれんの償却負担を踏まえた投資回収計画の策定が不可欠です。

税務上ののれんの取り扱い

税務上ののれんの取り扱いは、M&Aのスキームによって大きく異なります。

事業譲渡の場合、のれんは「資産調整勘定」として5年間で均等に損金算入でき、買い手の法人税負担を軽減します。この税務メリットは、事業譲渡が選択される大きな理由の一つです。

事業譲渡の場合、買い手が支払った対価のうち個別資産の時価を超える部分は「資産調整勘定」として計上されます(法人税法第62条の8)。資産調整勘定は60ヶ月(5年間)で均等に損金算入でき、買い手の法人税負担を軽減する効果があります。この税務メリットは、事業譲渡が選択される大きな理由の一つです。

株式譲渡の場合、税務上のれんは計上されません。買い手が取得するのはあくまで株式であり、被買収企業の個別の資産・負債を取得するわけではないためです。会計上は連結財務諸表でのれんが計上されますが、税務上の損金算入はできません。

合併の場合、非適格合併に該当すれば、被合併法人の資産・負債を時価で引き継ぎ、対価との差額が資産調整勘定(または差額負債調整勘定)として計上されます。適格合併では帳簿価額による引継ぎとなるため、のれんは計上されません(法人税法第62条)。

のれん(営業権)は消費税の課税対象です(消費税法第2条第1項第8号)。スキーム選択時には、消費税の負担も含めた総合的な検討が必要です。

売り手側については、事業譲渡では譲渡益が法人税等の課税対象となります。のれん部分も含めた譲渡対価が益金となり、譲渡した資産の帳簿価額が損金となります。消費税については、のれん(営業権)は課税資産の譲渡等に該当するため、消費税の課税対象です(消費税法第2条第1項第8号、消費税法施行令第1条)。

負ののれんが生じるケースと注意点

買収対価が時価純資産額を下回る場合、「負ののれん」が発生します。これは必ずしも有利な取引を意味するわけではなく、対象企業に何らかのリスクが内在している可能性を示唆しています。

負ののれんが生じやすいケースとしては、業績の悪化が見込まれる企業、特定の経営者に依存している企業、潜在的な訴訟リスクや環境リスクを抱える企業、後継者不在で早期売却を希望する企業などが挙げられます。

会計上、負ののれんは「企業結合に関する会計基準」(第33項)に基づき、発生した事業年度の特別利益として一括計上します。税務上は、差額負債調整勘定として5年間で均等に益金算入します(法人税法第62条の8第3項)。

まとめ

要点

  • 中小企業M&Aでは年買法が主流で営業利益の2〜5年分が目安だが、業種や経営の属人性によって適正な年数は変わる
  • 事業譲渡では税務上5年間の損金算入(資産調整勘定)が可能だが、株式譲渡ではこの税務メリットが得られない
  • のれんの消費税課税の有無を含め、スキーム選択時に税務面を総合的に検討し、税理士やM&Aアドバイザーと連携して交渉に臨む

のれんの前提となる企業価値評価についてはバリュエーションガイドで、スキーム別の税務処理はM&Aの税務ガイドで詳しく解説しています。

のれんの算定やM&Aの税務に関するご相談は、無料相談からご連絡ください。

よくある質問

Q. のれんとは何ですか?
A. のれんとは、M&Aにおいて買収価額が被買収企業の純資産額を上回る部分を指します。ブランド力、顧客基盤、技術力、人材、ノウハウなど、BSに計上されない無形の価値を反映したものです。
Q. のれんの償却期間は何年ですか?
A. 会計上は日本基準では20年以内で効果の及ぶ期間にわたり規則的に償却します。税務上は、事業譲渡の場合に計上される資産調整勘定として5年間で均等償却します(法人税法第62条の8)。株式譲渡ではのれんは計上されません。
Q. 負ののれんとは何ですか?
A. 買収価額が被買収企業の時価純資産額を下回る場合に生じるもので、割安で取得できたことを意味します。会計上は一括で特別利益に計上し、税務上は差額負債調整勘定として5年間で均等に益金算入します。
Q. のれんの金額はどう交渉すればよいですか?
A. 売り手は将来の収益力やシナジー効果を根拠に高い評価を主張し、買い手は投資回収期間やリスクを根拠に低い評価を主張するのが一般的です。第三者による企業価値算定書を取得し、客観的な根拠を持って交渉に臨むことが重要です。

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