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中小企業の会社売却ガイド|準備から成約までの流れ

中小企業が会社売却を成功させるための準備・手続き・交渉のポイントを解説。企業価値の算定方法、売却スキームの選び方、デューデリジェンス対応まで経営者向けにまとめました。

中小企業の経営者が会社売却を考えるきっかけは、後継者不在、体調面の不安、事業環境の変化などさまざまです。中小企業庁の「中小企業白書(2024年版)」によると、経営者の平均引退年齢は約70歳に達しており、後継者不在率は依然として50%を超えています。事業に価値があっても、引き継ぎ手がいなければ廃業を選ばざるを得ない状況は、従業員や取引先にとっても大きな損失となります。

会社売却はそうした状況を打開する選択肢の一つですが、「何から始めればよいのか」「自社にどれほどの価値があるのか」がわからず、踏み出せない経営者も少なくありません。本記事では、中小企業の会社売却について、準備段階から成約後のクロージングまでの流れを解説します。

会社売却の準備で最も重要なのはBSの整理

会社売却を成功させるうえで、最初に取り組むべきはバランスシート(BS)の整理です。買い手は財務諸表を詳細に精査しますので、不良債権や含み損のある資産、簿外債務が残っていると企業価値の大幅な減額要因になります。

BS整理には通常1〜3ヶ月を要します。この準備を怠るとDD段階で問題が発覚し、交渉が長引いたり破談になるリスクが高まります。売却を見据えた時点で早めに着手してください。

見直すべき項目としては、回収見込みのない売掛金・貸付金の処理、実態のない棚卸資産の評価減、遊休資産や利用していない保険の整理、役員借入金・役員貸付金の処理があります。

特に中小企業に多いのが、役員借入金や役員貸付金の問題です。役員貸付金は買い手にとって資金流出のリスクと映るため、売却前に返済しておくことが望ましいでしょう。役員借入金は債務免除によって解消できますが、債務免除益に対する課税が生じるため、税理士と相談しながら進める必要があります。

企業価値の算定方法を理解する

中小企業のM&Aで用いられる主な企業価値算定方法は3つあります。

時価純資産法は、BSの資産・負債を時価に修正したうえで純資産を算出する方法です。中小企業では最も基本的なアプローチとして位置づけられ、「実態BS」とも呼ばれます。簿価と時価の乖離が大きい不動産や有価証券を保有している場合に特に重要になります。

年買法(年倍法)は、時価純資産にのれん(営業権)を加算する方法で、中小企業のM&Aでは広く使われています。のれんの算定は、営業利益経常利益の2年分から5年分を目安にするのが一般的です。ただし、のれんの年数については業種特性や将来の収益見通しによって異なるため、画一的な基準はありません。

DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法です。理論的には最も合理的とされますが、中小企業の場合は将来の事業計画の精度に課題があるため、時価純資産法や年買法と併用して参考値として用いることが多いです。

いずれの方法を用いるにしても、中小企業特有の調整事項として、経営者報酬の適正化(過大報酬・過少報酬の修正)、個人的経費の排除、非経常的な損益の除外を行い、正常収益力を算出することが重要です。

売却スキームの選択と税務上の違い

会社売却のスキームは大きく「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つに分かれます。

株式譲渡は、会社の株式を買い手に売却する方法です。会社の法人格がそのまま移転するため、従業員の雇用契約、取引先との契約、許認可などが原則としてそのまま引き継がれます。手続きが比較的シンプルで、中小企業のM&Aでは最も多く選ばれるスキームです。個人株主の場合、譲渡益に対して所得税・住民税が合計約20%(所得税15.315%、住民税5%)課されます(租税特別措置法第37条の10)。

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を買い手に移転する方法です。買い手にとっては必要な資産・契約だけを選択して取得できるメリットがありますが、従業員との雇用契約の締結し直しや、取引先との契約の移管手続きが個別に必要となります。売り手の法人に譲渡益が計上され、法人税等の課税対象となります(法人税法第22条)。

税務面では、株式譲渡の方が売り手にとって有利になるケースが多いですが、買い手からすると事業譲渡の方がのれんの償却(税務上5年均等償却)ができるため、買収後の税務メリットがあります。売り手・買い手双方の利害を考慮した最適なスキーム選択が求められます。

デューデリジェンスへの対応

基本合意書(LOI)の締結後、買い手はデューデリジェンス(DD)を実施します。中小企業のM&Aで通常行われるDDは、財務DD、税務DD、法務DDの3つです。大規模案件ではこれに加えてビジネスDD(事業DD)や人事DDも行われます。

売り手としてDDに備えるために、過去3期分の決算書(勘定科目内訳書を含む)、申告書、法人税・消費税の申告書控え、定款・登記簿謄本、株主名簿、主要な契約書一覧、従業員名簿・就業規則、許認可に関する書類、固定資産台帳・賃貸借契約書、議事録(取締役会・株主総会)などを事前に整理しておくことが重要です。

特に中小企業で指摘されやすい項目として、未払残業代の潜在リスク、税務リスク(過去の申告内容の不備)、偶発債務(係争中の案件、保証債務)、キーパーソンへの依存度があります。これらを事前に把握し、可能なものは解消しておくことで、DDでの減額要因を最小限にとどめることができます。

最終契約からクロージングまでの流れ

DDの結果を踏まえて、最終条件の交渉が行われます。DDで発覚した問題点は、売買価格の調整、表明保証条項への反映、特別補償(インデムニティ)の設定、クロージング条件の追加、といった形で最終契約書に織り込まれます。

最終契約書(株式譲渡契約書または事業譲渡契約書)には、売買価格と支払条件、表明保証(売り手の情報の正確性の保証)、競業避止義務(売り手が同業を営まない義務)、補償条項(表明保証違反時の損害賠償)、クロージング前提条件(許認可移転の完了等)が規定されます。

クロージング日に株式(または事業資産)の移転と対価の支払いが行われ、M&Aが成約します。その後、従業員への説明、取引先への通知、各種届出の手続きを進めます。会社法第467条により、事業譲渡の場合は原則として株主総会の特別決議が必要です(特別支配会社への譲渡など一定の場合は省略可能)。

まとめ

要点

  • BSの整理と正常収益力の算出を事前に行い、自社の適正な企業価値を把握することが売却成功の第一歩
  • 株式譲渡と事業譲渡では税負担が大きく異なるため、自社に適した売却スキームを税務面も含めて検討する
  • DDで指摘されやすい事項を先回りして対処し、検討から成約まで半年〜1年以上を見込んだスケジュールで進める

会社売却の検討やBS整理に関するご相談は、無料相談からご連絡ください。

よくある質問

Q. 会社売却にかかる期間はどのくらいですか?
A. 準備開始から成約まで一般的に6ヶ月から1年程度です。BS上の不良資産整理や簿外債務の確認に時間を要する場合は、さらに数ヶ月かかることもあります。
Q. 会社売却で経営者が手にする金額はどう決まりますか?
A. 株式譲渡の場合、企業価値から有利子負債を差し引いた株式価値が売却対価の基本です。算定方法にはDCF法、類似会社比準法、時価純資産法などがあり、業種や規模に応じて使い分けます。中小企業ではのれん(営業権)を年買法で評価するケースが多くあります。
Q. 売却後に経営者は会社に残れますか?
A. 買い手から引継ぎ期間として残留を求められることが多く、半年から2年程度の顧問・役員としての関与が一般的です。競業避止義務についても契約時に取り決めます。
Q. 会社売却時の税金はいくらですか?
A. 個人が株式を譲渡した場合、譲渡益に対して所得税15.315%と住民税5%の合計約20%が課されます(申告分離課税)。法人株主の場合は法人税等の対象になります。退職金の支給など税務上有利なスキームの検討も重要です。

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