財務改善ナビ
経営・財務

3年後の数字を言語化する

9分で読める

中小企業の中期経営計画の作り方|金融機関にも通る策定5ステップ

中小企業の中期経営計画(3〜5年)の作り方を5ステップで解説。SWOT分析から数値計画、アクションプランまで、金融機関への提出を意識した実践的な策定方法と認定支援機関の活用法をまとめました。SWOT分析の進め方、3〜5年の数値計画の組み立て方、認定経営革新等支援機関の活用、金融機関への提出時に評価される構成要素まで整理。

中期経営計画は「大企業が作るもの」と思われがちですが、金融機関との交渉や補助金申請で効力を発揮するのは中小企業のほうです。「経営者が数字で自社を語れるか」は、融資審査や取引先からの信用に直結します。

一方で「何をどう書けばいいかわからない」という声も多く聞かれます。中期経営計画の作り方に正解のテンプレートがあるわけではありませんが、金融機関の評価ポイントを押さえた構成にすれば、融資の場面で大きな武器になります。本記事では、中小企業に特化した中期経営計画の作り方を5ステップで解説します。

なぜ中小企業に中期経営計画が必要なのか

金融機関が見ているポイント

銀行融資の審査では、決算書の数字だけでなく「将来どう経営するか」のビジョンが問われます。金融機関が中期経営計画を通じてチェックしているのは、経営理念が明確に言語化されているか、自社の経営状況を数字で把握しているか、そして現実的な返済能力を有しているかの3点です。

計画を提出している企業は、融資の判断スピードが上がる傾向にあります。追加融資や条件変更(リスケジュール)の交渉がスムーズに進むのも、計画があればこそ。金融庁の「企業アンケート調査」によれば、経営計画を策定し金融機関と共有している中小企業のほうが、融資条件に満足している割合が高いことが示されています。

モニタリング強化型保証制度の活用にも、月次で経営情報を共有する体制が前提となるため、中期経営計画の存在が基盤になります。

補助金申請の事業計画として活用できる

ものづくり補助金や事業再構築補助金の申請では、事業計画書の提出が求められます。中期経営計画を策定しておけば、その一部を切り出す形で事業計画書を作成でき、申請書類の精度が格段に上がります。

逆に言えば、補助金の申請をきっかけに中期経営計画を整理する企業も少なくありません。「補助金のために作る」のではなく、「経営の地図として使う計画を、補助金申請にも活用する」と捉えると、策定のモチベーションが変わってきます。

社内への効果 ―― 方向性の共有と組織の一体感

金融機関や補助金への効果ばかりが注目されがちですが、中期経営計画のもうひとつの価値は社内に対する求心力です。従業員が「この会社は3年後にどこを目指しているのか」を共有できれば、日々の業務判断に一貫性が生まれます。

特に、幹部候補の育成においては中期経営計画の策定プロセスに参加させること自体が有効な教育機会になります。

中期経営計画の作り方 ―― 策定の5ステップ

1

2

3

4

5

ステップ1: 経営理念・ビジョンの言語化

計画の出発点は「3〜5年後にどうなっていたいか」を言葉にすること。売上規模、事業構成、従業員数、地域での位置づけ、顧客層の変化など、具体的なイメージを経営者自身が描きます。

たとえば「3年後に売上高5億円、営業利益率8%、新規事業の売上比率20%」というビジョンがあれば、逆算して各年度の目標設定が可能になります。曖昧なビジョンのまま数値計画を作ると、「なぜその数字なのか」を金融機関に説明できません。

ビジョンを言語化するときの手順として、まず経営者が30分ほどかけて「3年後の理想の姿」を箇条書きで書き出してみてください。売上や利益の数字だけでなく、取引先の顔ぶれ、従業員の働き方、地域での評判など、定性的な要素も含めて書き出すのがポイントです。それを整理・要約して1〜2段落のビジョンステートメントにまとめれば、計画全体の軸が定まります。

ステップ2: 現状分析(SWOT分析と財務分析)

ビジョンと現状のギャップを埋めるのが中期経営計画の本質です。そのためには、現状を客観的に把握する必要があります。

SWOT分析で自社の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を整理しましょう。経営者の自問自答だけでなく、幹部や現場社員へのヒアリングも有効です。現場が感じている強みと経営者の認識にずれがあるケースは珍しくありません。

製造業の中小企業を例に、SWOT分析の記入例を示します。

強み(Strength)の欄には、たとえば「金属加工の精密技術で公差±0.01mm対応可能」「主要取引先との20年以上の取引実績」「熟練技術者が5名在籍」といった項目が入ります。

弱み(Weakness)の欄には、「40代以下の技術者が1名のみ(技能承継リスク)」「営業専任者がおらず新規開拓が停滞」「生産管理が紙ベースで属人化」などが該当します。

機会(Opportunity)の欄には、「EV・半導体関連の精密部品需要の増加」「競合の廃業による市場シェア拡大の余地」「ものづくり補助金による設備投資の後押し」。

脅威(Threat)の欄には、「原材料費の高騰(ステンレス価格が2年で30%上昇)」「人手不足による採用難」「海外メーカーの低価格攻勢」を記載します。

強み(S)と機会(O)の掛け合わせが成長戦略の核になります。上の例でいえば「精密加工技術を武器にEV関連部品市場に参入する」が有力な戦略です。弱み(W)と脅威(T)の掛け合わせはリスク対策の最優先項目。「技能承継リスク×人手不足」に対しては、デジタル化による技能のマニュアル化と若手採用の強化が急務だとわかります。

財務分析では、経営指標の3カテゴリを確認してください。収益性(売上高営業利益率、ROA)、安全性(自己資本比率、流動比率)、成長性(売上高成長率)。過去3期分の推移を分析し、改善すべきポイントを特定します。決算書の読み方を参照しながら、自社の財務状況を定量的に把握しておくことが、説得力ある計画づくりの土台になります。

ステップ3: 数値目標の設定

3〜5年間の売上高、営業利益、経常利益、自己資本比率のKPI(重要業績評価指標)を設定します。金融機関が信頼するのは、根拠のある現実的な数値です。「年間売上10億円」のような希望的観測は、逆に経営者の判断力を疑われかねません。

数値目標は「ビジョンから逆算」して設定するのが基本。3年後の目標売上を達成するには、毎年何%の成長が必要で、それを実現するための受注件数・単価・リピート率はどの程度か。ブレークダウンして検証可能な粒度まで落とし込んでください。

たとえば、現在の売上高3億円、営業利益率4%(1,200万円)の製造業が、3年後に売上高4億円、営業利益率6%(2,400万円)を目指す場合。年間の売上成長率は約10%。既存顧客の深耕で5%、新規顧客の開拓で5%のように内訳を分解し、「既存A社への納品品目を2品目追加(年1,500万円増)」「EV部品の新規受注を3社開拓(年5,000万円)」と具体的にひもづけていきます。

保守的シナリオと挑戦シナリオ

金融機関に提出する場合は「保守的シナリオ」と「挑戦シナリオ」の2つを用意するのが効果的です。保守的シナリオで返済能力を示し、挑戦シナリオで成長意欲を伝えます。保守的シナリオの達成確度は80%以上を目安に設定してください。

ステップ4: アクションプランの策定

数値目標を達成するための具体的な施策を、担当者と期限を明確にして設定します。「営業強化」のような抽象的な記述は計画とは呼べません。「何を」「誰が」「いつまでに」「どうやって」を明記してください。

部門別のアクションプラン例を挙げます。

営業部門であれば、「EV部品メーカー5社への技術提案営業を開始する。担当: 営業部長。期限: 2026年9月。活動: 月2社のアポイント取得、技術サンプルの送付」「既存取引先A社への新規品目提案を実施する。担当: 営業課主任。期限: 2026年6月。活動: A社の設計部門との技術打合せを月1回設定」。

製造部門であれば、「5軸加工機を1台導入し、多品種少量生産の対応力を強化する。担当: 製造部長。期限: 2027年3月。予算: 3,000万円(ものづくり補助金活用)」「熟練技術者のノウハウを動画マニュアル化し、技能承継を進める。担当: 製造課リーダー。期限: 2026年12月」。

管理部門であれば、「クラウド会計ソフトを導入し、月次決算を翌月15日までに確定する体制を構築する。担当: 経理担当。期限: 2026年6月」「経営ダッシュボードを構築し、月次の経営会議でKPIを確認する。担当: 管理部長。期限: 2026年9月」。

施策は年、半期、四半期、月次の順にブレークダウンし、月次のPDCAで進捗を管理する仕組みを設計してください。

ステップ5: モニタリング体制の構築

計画を作って終わりにしないための仕組みが、モニタリング体制です。月次決算で予実管理(予定と実績の比較)を行い、差異が生じた場合は原因分析と軌道修正を実施します。

具体的な運用ルールとしては、毎月の経営会議でKPIの予実を確認する場を設けてください。売上、利益、受注件数、新規顧客数など、計画で設定した指標の達成率を一覧で確認できる資料を用意します。差異が10%以上ある項目については、原因と対策を議題に上げるルールを設けると、PDCAが形骸化しにくくなります。

半期に1回はローリング(計画の見直し)を実施し、外部環境や前提条件の変化を計画に反映させてください。為替レートや原材料価格の大幅な変動、主要取引先の経営状況の変化、競合の動きなど、計画策定時と前提が変わっている項目がないかを棚卸しします。

金融機関に評価される計画書のポイント

金融機関の融資担当者は、年間で数十件〜百件以上の経営計画書を目にしています。その中で「この経営者はわかっている」と評価される計画には共通点があります。

1つ目は、数字の根拠が明確であること。「売上20%増」と書くだけでなく、その根拠(新規取引先の見込み、既存取引の増額予定、市場成長率など)が具体的に記載されている計画は信頼されます。

2つ目は、リスクへの対応が記載されていること。計画が未達に終わった場合のリカバリー策(コスト削減の具体策、代替の売上確保策など)が書かれていると、経営者の実務能力への評価が高まります。

3つ目は、過去の計画の達成状況が示されていること。2回目以降の提出であれば、前回計画の達成率と未達項目の原因分析を冒頭に記載してください。「計画を立てて終わりにしない」姿勢が伝わり、継続融資の判断材料になります。

なお、計画書の分量は本文10〜20ページが目安です。100ページの分厚い計画書を作る必要はなく、ポイントを絞った簡潔な計画のほうが読まれやすく、経営者自身も運用しやすいでしょう。

認定経営革新等支援機関の活用

策定費用の補助制度

自社だけで中期経営計画を策定するのが難しい場合は、認定経営革新等支援機関の力を借りることも選択肢です。中小企業庁の「経営改善計画策定支援事業」を利用すれば、認定支援機関による計画策定費用の2/3(上限200万円)が補助されます。早期経営改善計画は上限20万円の簡易版で、比較的短期間(1〜2か月)で策定可能です。

認定支援機関には税理士、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関などが含まれます。顧問税理士が認定支援機関であれば、日常の会計データをベースに効率的に計画を策定できるため、まず顧問税理士への相談から始めてみてください。

事業計画書の書き方との使い分け

中期経営計画と事業計画書の役割は異なります。中期経営計画は「全社の3〜5年の方向性」を示すもので、事業計画書は「特定の事業・融資案件」に紐づく計画。両者を明確に使い分けたうえで、中期経営計画を上位文書として事業計画書を派生させる構造にすると、整合性のある計画体系が構築できます。

まとめ

中期経営計画策定のポイント

  • 5ステップ: ビジョン言語化 → SWOT+財務分析 → 数値目標 → アクションプラン → モニタリング
  • 金融機関は計画を「経営者の経営理解度」の指標として見ている。提出で融資判断がスムーズに
  • 数値目標はビジョンから逆算。保守的シナリオと挑戦シナリオの2つを用意すると効果的
  • アクションプランは「何を・誰が・いつまでに・どうやって」を明記。部門別に具体化する
  • 月次決算で予実管理、半期ごとにローリングで計画を見直す
  • 認定支援機関の活用で策定費用の2/3(上限200万円)が補助される

中期経営計画の策定や金融機関との交渉について具体的なご相談がある方は、無料相談からお問い合わせください。

よくある質問

Q. 中期経営計画と事業計画書の違いは何ですか?
A. 事業計画書は特定の事業や融資申請のために作成する短期的な計画です。中期経営計画は企業全体の3〜5年間の方針・戦略・数値目標を定めたもので、複数の事業を横断します。金融機関は中期経営計画を「経営者の経営理解度」の指標として見ています。
Q. 中小企業でも中期経営計画は必要ですか?
A. 必須ではありませんが、金融機関との融資交渉や補助金申請で大きなアドバンテージになります。計画策定の過程で自社の強み・弱みが明確になり、経営判断の精度が上がるという実務的なメリットもあります。
Q. 認定経営革新等支援機関の支援は有料ですか?
A. 支援機関自体への相談は機関によります。ただし経営改善計画策定支援事業を利用すると、計画策定費用の2/3(上限200万円)が国から補助されます。早期経営改善計画であれば上限20万円の簡易版もあります。
Q. 計画はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 半期に1回のローリング(見直し)を推奨します。月次決算で予実管理を行い、半期ごとに計画の前提が変わっていないかを確認します。環境変化が大きい場合は通期を待たず修正してください。

もっと読む

記事の内容を自社の状況に当てはめる

債権の状態、決算時期、顧問士業との確認事項を分けて整理します。

状況を送る