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回収不能債権に決着をつける

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債権放棄の手続き|損金算入の要件と実務

回収不能な売掛金・貸付金の債権放棄手続きを解説。損金算入の要件を貸倒損失(通達9-6-1(4))と寄附金非該当(9-4-1・9-4-2)の2ルートで整理し、内容証明郵便による債務免除通知の書き方と文例、取締役会決議と議事録、債務免除益への対応まで中小企業の経理実務向けにまとめました。

取引先の経営悪化で売掛金が回収できなくなった。何度督促しても返答がない。こうした回収不能な債権を放置すると、BS(貸借対照表)の資産が過大に表示され、融資審査や経営判断に悪影響を及ぼします。

債権放棄(債務免除)は、債権者が自らの意思で債権を手放す手続きです。要件を満たせば税務上の損金に算入でき、貸借対照表の正常化と税負担の軽減につながることがあります。

本記事では、中小企業の経理担当者・経営者向けに、債権放棄の具体的な手続き、税務上の要件、注意点を解説します。

債権放棄とは何か

債権放棄の法的な意味

債権放棄とは、債権者が一方的に債務者に対する債権を免除する意思表示です。民法第519条に基づき、債権者の意思表示のみで効力が生じます(債務者の同意は不要)。

法的なポイントは3つあります。

  • 一方的な意思表示で成立する(債務者の承諾不要)
  • 書面の交付は法律上の要件ではないが、実務上は必ず書面で行う
  • 効力が発生すると、債権は消滅する(撤回不可)

債権放棄・貸倒損失・貸倒引当金の違い

不良債権の処理方法は3つあり、それぞれ要件が異なります。

処理方法性質タイミング税務上の取扱い
貸倒引当金将来の損失に備えた引当期末決算時法定繰入率の範囲で損金算入
貸倒損失客観的事由による損失確定事由発生時通達9-6-1〜9-6-3の要件を満たせば損金算入
債権放棄債権者の能動的な意思表示任意のタイミング通達9-6-1(4)に当たれば貸倒損失、当たらなければ寄附金の判定へ

債権放棄を選択すべき場面

たとえば次のような場合に債権放棄が有効です。

  • 取引先が事実上の倒産状態だが、法的な倒産手続きをとっていない
  • 少額多数の債権が滞留しており、個別回収のコストが見合わない
  • 取引先との関係清算を明確にしたい
  • 決算対策として不良債権をBSから除去したい

債権放棄で損金にする2つのルート

債権放棄が税務上の損金になる道筋は2つあり、根拠となる通達も要件もまったく違います。ここを混ぜると、必要のない再建計画を作ったり、逆に本来は貸倒損失にできたものを寄附金として否認されたりします。

同じ債権放棄でも、根拠にする通達で要件が変わる回収できない金銭債権判定1債務超過が相当期間続き弁済を受けられない貸倒損失として損金法基通 9-6-1(4)損金経理は不要判定2子会社等の整理・再建で経済合理性がある寄附金に当たらない法基通 9-4-1・9-4-2いずれにも当たらない寄附金限度額超は損金不算入判定1に当たるなら再建計画は要らない。判定1で足りないときに初めて判定2を検討する
債権放棄の損金性を決める判定フロー(法人税基本通達9-6-1(4)、9-4-1、9-4-2)

ルート1:貸倒損失として損金にする(通達9-6-1(4))

回収不能の債権を書面で免除したときの、もっとも直接的な根拠が法人税基本通達9-6-1(4)です。次の金額は、その事実が発生した事業年度の貸倒れとして損金の額に算入します。

債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

国税庁の質疑応答事例は、この規定を満たす要件を3つに分解しています。

要件内容
債務超過の継続債務超過の状態が相当期間継続していること
弁済不能それにより金銭債権の弁済を受けることができないと認められること
書面性債務者に対し書面により明らかにした債権放棄であること

この3つを満たすなら、再建計画も支援者の合意も要りません。 相手が子会社かどうかも問われません。債権放棄の実務でまず確認すべきは、9-4-1や9-4-2ではなくこの規定です。

「債務超過」は簿価ではなく時価で判定する

国税庁は、弁済を受けることができるか否かは債務者の実質的な財産状態を検討する必要があるため、債務超過かどうかは時価ベースで判定するとしています。帳簿上は資産超過でも、含み損を反映すれば債務超過というケースはこの規定の射程に入ります。逆に、簿価で債務超過に見えても含み益のある不動産を持っていれば要件を満たしません。

9-6-1に該当する金額は、法人が損金経理をしたかどうかにかかわらず損金になります。決算で貸倒損失を計上し忘れていても、申告調整で減算できるということです。あとで説明する9-6-2・9-6-3が「損金経理をしたときに認める」形式なのと、ここが決定的に違います。

ルート2:寄附金に当たらないものとして扱う(通達9-4-1・9-4-2)

判定1の要件を満たさない相手に債権を放棄すると、原則として経済的利益の供与=寄附金になります。ただし子会社等に対するものは、次の2つの通達で寄附金から外れる余地があります。この2つは適用場面が違うので、取り違えると必要な要件を見誤ります。

通達場面要件
9-4-1子会社等を整理する場合
(解散、経営権の譲渡等に伴う損失負担・債権放棄)
損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかで、やむを得ず行うに至った等の相当な理由があること
9-4-2子会社等を再建する場合
(無利息貸付け、債権放棄等)
業績不振の子会社等の倒産を防止するためやむを得ず行われるもので、合理的な再建計画に基づく等の相当な理由があること

つまり、「合理的な再建計画」を求められるのは再建の場面(9-4-2)であって、整理の場面(9-4-1)ではありません。 解散する子会社への債権放棄に再建計画を作ろうとするのは、要件の取り違えです。

ここでいう「子会社等」は資本関係のある会社に限りません。通達の注書きは、資本関係を有する者のほか、取引関係・人的関係・資金関係等において事業関連性を有する者を含むとしています。長年の主要取引先はこれに当たり得ます。

再建計画の合理性は、支援額の合理性・支援者による再建管理の有無・支援者の範囲の相当性・支援割合の合理性などから総合的に判断されます。利害の対立する複数の支援者の合意で作られた計画は、原則として合理的なものとして扱われます。

債務超過でなければ必ず寄附金、ではない

国税庁は、債務超過でない債務者への債権放棄でも、営業状態や放棄に至った事情からみて経済合理性があれば寄附金に該当しないとしています。例として、営業に必要な登録や許可の条件として一定の財産的基礎が求められる業種で、赤字決算のままでは登録が取り消されて営業継続が不可能になる場合や、営業譲渡等による整理に際して譲受者側から赤字の圧縮を強く求められている場合が挙げられています。

債権放棄をしなくても貸倒損失にできる場合

放棄の通知を出す前に、そもそも通知なしで貸倒損失にできないかを確認します。回収不能が客観的に明らかなら、わざわざ債権を消滅させる必要はありません。

通達要件対象債権損金経理
9-6-1更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定、債権者集会の協議決定等による切捨て、書面による債務免除(9-6-1(4))金銭債権全般不要
9-6-2債務者の資産状況・支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになったこと。担保物があるときは処分後金銭債権全般必要
9-6-3継続的な取引の停止から1年以上経過(担保物のあるものを除く)、または同一地域の売掛債権の総額が取立費用に満たず督促しても弁済がないこと売掛債権のみ(貸付金等は対象外)必要(備忘価額を残す)

混同が起きやすいのは9-6-2と9-6-3です。9-6-2に「1年」のような期間の要件はありません。 資産状況と支払能力から全額回収できないことが明らかなら、期間の長短を問わず計上できます。一方の1年は9-6-3(1)の要件で、こちらは売掛債権に限られ、貸付金や未収の貸付利息には使えません。9-6-3は債権を1円などの備忘価額まで落とす処理で、全額を消すわけでもありません。

なお9-6-3(1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた相手の資産状況や支払能力が悪化したために取引をやめた場合を指します。不動産取引のようにたまたま一度だけ取引した相手に対する売掛債権には適用されません。

損金算入が認められるケースと認められないケース

ケース扱い根拠
債務超過が数期にわたり続く取引先に書面で免除貸倒損失9-6-1(4)
資産状況・支払能力から全額回収不能が明らか貸倒損失(放棄の通知は不要)9-6-2
継続取引を停止して1年以上経過した売掛金貸倒損失(備忘価額を残す)9-6-3(1)
解散する子会社への債権放棄で、放棄しなければより大きな損失を被る寄附金に該当しない9-4-1
業績不振の子会社等を合理的な再建計画で支援寄附金に該当しない9-4-2
回収可能だが取引先との関係維持のため放棄寄附金経済合理性なし
回収が面倒なので放棄寄附金相当な理由なし
実質的な利益供与を目的とした関係会社への放棄寄附金経済合理性なし

寄附金になった場合の負担

寄附金に該当すると、資本金等の額と所得金額から計算される損金算入限度額を超える部分は損金になりません。放棄した金額は戻らないのに税負担だけが残るため、判定1・判定2のどちらにも当たらない放棄は、実行する前に要件を作れないかを検討します。

税務調査で求められる証拠書類

放棄した事実そのものより、放棄せざるを得なかった状態を後から再現できるかが問われます。

  1. 債務免除通知書(内容証明郵便の謄本 + 配達証明)
  2. 債務者の財務状況を示す資料(信用調査報告書、決算書の写し、登記情報)
  3. 債務超過の判定資料として、含み損益を反映した実態貸借対照表(9-6-1(4)で処理する場合)
  4. 回収努力の記録(督促状の送付記録、電話記録、訪問記録)
  5. 社内稟議書・取締役会議事録(債権放棄の意思決定過程を示すもの)
  6. 再建計画書と支援者間の合意資料(9-4-2で処理する場合)

債権放棄の具体的な手続き

ステップ1:債権の状況調査と回収可能性の判断

まず、対象債権の回収可能性を客観的に評価します。

調査項目:

  • 債務者の現在の財務状況(決算書の入手、信用調査)
  • 債務者の資産状況(不動産・預金等の差押え対象の有無)
  • 過去の督促記録の整理(いつ・どのような方法で・何回督促したか)
  • 担保・保証人の有無
  • 消滅時効の状況(後述の民法第166条第1項)

ステップ2:社内での意思決定(稟議・取締役会決議)

債権放棄は会社の資産を無償で手放す行為なので、権限のある機関が決定した記録を残します。取締役会設置会社では、債権放棄が「重要な財産の処分」に当たる場合、取締役会の決議が必要です。 会社法第362条第4項第1号は、重要な財産の処分及び譲受けの決定を取締役に委任することができないと定めています。

重要かどうかは金額だけで決まるものではなく、会社の総資産に占める割合、その債権の性質、従来の取扱いなどから判断されます。金額の基準は法令にはないため、自社の職務権限規程で線引きを決めておき、その規程どおりに決裁した証跡を残す形になります。

稟議書には次の事項を記載します。

  • 債権の内容(取引先名、金額、発生日、対象取引)
  • 回収不能と判断した理由と、その裏付けとなる資料
  • これまでの回収努力の経緯
  • 貸倒損失(9-6-1(4))と寄附金非該当(9-4-1・9-4-2)のどちらで処理するか
  • 債権放棄の経済合理性

税務調査で経済合理性を問われたときに、意思決定の時点でどこまで検討していたかを示せるかどうかが分かれ目になります。放棄を決めた後に理由を書き足した書類は、日付から見透かされます。

ステップ3:債務免除通知書の作成

債務免除通知書は、9-6-1(4)がいう「書面により明らかにされた債務免除額」を証明する書類です。どの債権を、いくら免除したのかが特定できないと、書面の要件を満たしたことになりません。

記載すべき事項は次のとおりです。

  • 差出人(債権者)の名称・住所・代表者名
  • 宛先(債務者)の名称・住所・代表者名
  • 債権の特定(契約名、発生日、請求書番号、金額)
  • 元本・利息・遅延損害金の内訳と、それぞれ免除するかどうか
  • 「上記債権を免除する」旨の明確な記載
  • 通知日

文例は次のようになります。内容証明郵便には字数・行数の制限があるため、実際に差し出す前に謄本の書式を確認してください。

                      債務免除通知書

                                    令和○年○月○日

  〒000-0000
  ○○県○○市○○1-2-3
  株式会社○○
  代表取締役 ○○ ○○ 殿

                    〒000-0000
                    ○○県○○市○○4-5-6
                    株式会社△△
                    代表取締役 △△ △△  印

  当社は、貴社に対して有する下記債権につき、本書面が貴社に
  到達した日をもって、下記2記載の金額を免除いたします。



  1. 債権の表示
     令和○年○月○日付売買契約に基づく商品売買代金債権
     請求書番号 A-0000
     元本      金1,000,000円
     遅延損害金  金50,000円
     (令和○年○月○日現在。同日の翌日以降に発生する分を含む)

  2. 免除する金額
     金1,050,000円(上記元本および遅延損害金の全額)

                                          以上

効力の発生日と免除する金額を数字で特定するのが要点です。「免除いたしました」と過去形で書くと、いつの時点で債権が消滅したのかが書面から読み取れません。遅延損害金は日々増えるため、基準日を置いたうえで、その後に発生する分を含めるかどうかまで書きます。

一部だけ放棄する場合は、免除する金額と残る金額の両方を書きます。「○○円を免除し、残額○○円については引き続き支払いを求める」と明記しないと、全額を免除したのか一部なのかが後から争えなくなります。

ステップ4:内容証明郵便での送付

口頭・普通郵便では書面の要件を証明できない

債務免除は民法上、意思表示だけで効力が生じます。しかし税務上9-6-1(4)で処理するには「書面により明らかにされた」ことが要件で、税務調査では免除の時期と内容の両方を示す必要があります。内容証明郵便は文書の存在を、配達証明は到達の事実を、それぞれ別に証明するものです。

内容証明郵便は、いつ・どのような内容の文書を・誰から誰あてに差し出したかを日本郵便が証明する制度です。証明されるのは内容文書の存在であって、書かれた内容が真実であることではありません。 加えて、内容証明は一般書留とした郵便物にしか付けられません。

加算料金は次のとおりです。

区分料金備考
内容証明謄本1枚 480円1枚増えるごとに290円加算
一般書留480円内容証明・配達証明の前提
配達証明(差出時)350円一般書留とした郵便物に限る
合計(謄本1枚の場合)1,310円ほかに定形郵便物の基本料金

差し出せる郵便局は集配郵便局と支社が指定した郵便局に限られ、取扱曜日が決まっている局もあります。急ぐ場合は、24時間受付のe内容証明(電子内容証明)を使う方法もあります。

差出人と郵便局が謄本を各1通ずつ保管するため、免除の事実を後から確認できます。内容証明の謄本は5年間保存され、差出人はその閲覧を請求できます(1回480円)。 社内で通知書の控えを紛失しても、郵便局側の記録から再現できるということです。

ステップ5:会計処理の実施

債務免除通知書が債務者に到達した日をもって、仕訳処理を行います。

仕訳例(売掛金100万円の債権放棄)

借方金額貸方金額
貸倒損失1,000,000円売掛金1,000,000円

9-6-1(4)で処理する場合、損金経理は要件ではありません。決算で計上し忘れていても申告調整で減算できます。ただし会計上も債権は消滅しているので、帳簿から落とさないと貸借対照表に実在しない資産が残ります。

消費税については、課税資産の譲渡等から生じた売掛金が回収できなくなったときに、その課税期間の課税標準額に対する消費税額から、貸倒れに係る消費税額を控除します(消費税法第39条第1項)。 仕入税額控除とは別の枠組みで、売上側の消費税を減らす処理です。控除できる金額は、領収できなくなった税込価額に110分の7.8(軽減税率対象なら108分の6.24)を乗じて計算します。

消費税の貸倒れ控除は書類の保存が適用要件

消費税法第39条第2項は、貸倒れの事実が生じたことを証する書類を保存しない場合には第1項を適用しないと定めています。内容証明郵便の謄本と配達証明は、法人税の証拠であると同時に消費税の適用要件でもあります。なお、免税事業者であった期間の売上に係る債権は控除の対象外です。

放棄した後に一部でも回収できたときは、その領収した税込価額に係る消費税額を、回収した課税期間の課税標準額に対する消費税額に加算します(同条第3項)。

債権放棄の注意点

債務者側への影響(債務免除益)

債権放棄を受けた債務者側では、免除された金額が債務免除益として益金に算入されます。相手が再建途上の取引先なら、こちらの支援が相手の課税所得を生むという構図になります。

通常は青色欠損金(法人税法第57条)と相殺しますが、繰越期間の10年を過ぎて切り捨てられた欠損金、いわゆる期限切れ欠損金まで使えるのは限られた場面だけです。法人税法第59条は次の場合を定めています。

場面
第1項更生手続開始の決定があった場合
第2項再生手続開始の決定等があり、資産の評価損益(第25条第3項・第33条第4項)の適用を受ける場合
第3項再生手続開始の決定等があったが、資産の評価損益の適用を受けない場合
第4項解散した場合において、残余財産がないと見込まれるとき

私的な債権放棄を受けただけでは、この規定は使えません。 法的整理か、これに準ずる政令で定める事実か、解散して残余財産がないと見込まれる状態か、いずれかが必要です。さらに同条第6項により、確定申告書等に計算明細と事実を証する書類を添付することが適用要件になっています。

取引先の再建を支援するつもりの債権放棄が、相手に想定外の法人税を発生させて再建を妨げることがあります。金額が大きいときは、放棄の前に相手側の欠損金の状況を確認しておきます。

一部放棄と全額放棄の使い分け

  • 一部放棄 — 回収可能な部分は回収し、残額のみを放棄。回収努力を尽くした経緯を示しやすい
  • 全額放棄 — 完全に回収不能な場合に実施。回収不能であることの証拠がより強く求められる

9-6-1(4)は「債務免除額」を損金にする規定なので、一部放棄でも全部放棄でも適用できます。一部でも回収できる見込みがあるなら、その部分は回収して残額だけを放棄するほうが、弁済を受けることができないという判断の説明が通りやすくなります。

消滅時効との関係

民法第166条第1項は、債権の消滅時効を2つの起算点で定めています。

  • 第1号 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
  • 第2号 権利を行使することができる時から10年間

売掛金のように支払期日が契約で決まっている債権は、通常その期日を知っているため第1号の5年で時効にかかります。時効が完成し、債務者が時効を援用すれば、債権放棄をしなくても債権は消滅します。

ただし時効の完成を待つ場合、消滅する時期は債務者が援用するかどうかに委ねられます。債権放棄なら、証拠書類が揃っている段階で自社の判断により処理でき、貸借対照表の正常化を計画的に進められます。

連帯保証人がいる場合の注意

主たる債務者に対して債務免除をすると、保証債務も消滅します。 保証債務は主たる債務に付従するもので、主たる債務が消滅すれば保証債務だけが残ることはありません。民法第448条が、保証人の負担は主たる債務より重くならず、保証契約の締結後に主たる債務が加重されても保証人の負担は加重されないと定めているのも、この付従性の現れです。

主たる債務を免除すると、保証人にも請求できなくなる免除する前主たる債務者に免除したあと債権者主たる債務者連帯保証人どちらにも請求できる債権者主たる債務保証債務付従性により保証債務も消える保証人から回収する予定があるなら、主たる債務者への債務免除は選択できない
主たる債務の免除と保証債務の関係(保証債務の付従性、民法第448条)

実務上の意味は単純です。連帯保証人からの回収を残したいなら、主たる債務者への債務免除という手段そのものを選べません。 通知書に「保証人に対する請求権は留保する」と書いても、消滅した主たる債務に付従する保証債務を復活させることはできません。

保証人からの回収を続けながら主たる債務者への請求をやめたい場合は、債務を消滅させずに請求を控える合意にとどめるなど、別の構成を検討することになります。ただしこの場合、債権は消滅していないため9-6-1(4)の「債務免除額」には当たらず、貸倒損失として処理する根拠は9-6-2などを個別に検討する必要があります。税務と保証の扱いが逆方向に働くため、保証人がいる債権の放棄は弁護士と税理士の双方に確認してから実行してください。

まとめ

この記事のポイント

  • 損金にする道筋は2つある。債務超過が相当期間続く相手に書面で免除したなら通達9-6-1(4)の貸倒損失、当たらないなら9-4-1・9-4-2で寄附金に該当しないかを検討する
  • 9-6-1(4)の「債務超過」は簿価ではなく時価で判定する。帳簿が資産超過でも含み損を反映すれば要件を満たすことがある
  • 通知を出す前に、9-6-2や9-6-3で放棄せずに貸倒損失にできないかを確認する。9-6-2に期間の要件はなく、1年の基準は売掛債権に限る9-6-3のもの
  • 主たる債務者への債務免除は保証債務も消滅させる。保証人からの回収を残したいなら債務免除は選べない

回収できない債権を貸借対照表に載せ続けると、総資産が実態より大きく見え、自己資本比率も本来の水準から乖離します。金融機関は回収可能性を踏まえた実態のバランスシートで評価するため、回収不能債権の額が純資産を上回るような場合には実質債務超過と判断されることもあります。回収不能と判断した債権は、根拠となる通達を確かめたうえで処理してください。

債権放棄と並行して検討したい債権償却(貸倒損失計上)の手続きや、BS全体の見直し方法についてはBSの読み方と改善ポイントも参考になります。自社の不良債権処理の進め方を整理したい場合は無料相談をご利用ください。論点整理を目的とした一般的なご相談で、個別の税務申告や法律判断は税理士・弁護士にご確認ください。

出典

(いずれも2026年8月29日に内容を確認しています。個別の税務処理は取引の実態で変わるため、実務にあたっては顧問税理士にご確認ください。)

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よくある質問

Q. 債権放棄と貸倒損失の違いは何ですか?
A. 債権放棄は債権者が自ら債務を免除する能動的な行為で、民法上は意思表示だけで債権が消滅します(書面は成立要件ではありません)。一方、貸倒損失は債務者の資産状況や支払能力からみて回収不能と認められる場合などに計上する税務上の取扱いです。書面が必要になるのは、放棄した金額を法人税基本通達9-6-1(4)の「書面により明らかにされた債務免除額」として立証する場面です。
Q. 債権放棄は税務上、損金に算入できますか?
A. 損金にする道筋は2つあります。債務者の債務超過が相当期間続き弁済を受けられない状態で書面により免除したときは、法人税基本通達9-6-1(4)により貸倒損失として損金に算入します。この要件を満たさない場合でも、子会社等の整理や再建として経済合理性が認められれば、9-4-1・9-4-2により寄附金に該当しないものとして扱われます。どちらにも当たらない放棄は寄附金となり、損金算入限度額を超える部分は損金になりません。
Q. 債権放棄を行うと債務者側にはどのような影響がありますか?
A. 債務者側では免除された金額が「債務免除益」として益金に算入されます。青色欠損金が残っており、繰越期間や連続して申告している等の要件を満たす場合は相殺できることがありますが、債務超過であること自体が相殺できる要件ではありません。繰越期間を過ぎた期限切れ欠損金を使えるのは、会社更生・民事再生等や解散して残余財産がないと見込まれる場合など、法人税法第59条が定める限られた場面に限られます。
Q. 債権放棄と債権償却はどちらを先に検討すべきですか?
A. まず債権放棄をしなくても貸倒損失にできないかを確認してください。全額が回収できないことが明らかなら9-6-2、継続的取引の停止から1年以上経過した売掛債権なら9-6-3で処理でき、通知書の送付が要りません。いずれにも当たらないが債務超過が相当期間続いている場合に、書面による債務免除(9-6-1(4))を検討する流れになります。

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