BSの含み損、見えていますか
資産の健全性チェック|BSに潜む含み損の発見法
貸借対照表(BS)上の資産に含み損がないかをチェックする方法を解説。売掛金、棚卸資産、有価証券、固定資産ごとの点検ポイントと、実態BSの作成手順を中小企業向けにまとめました。
帳簿上の資産額と実際の価値が一致しているとは限りません。中小企業のBSには、回収見込みのない売掛金、売れ残りの在庫、値下がりした不動産など、帳簿に載っているものの実質的な価値が大幅に低下した資産が含まれていることがあります。これがいわゆる「含み損」です。
含み損は帳簿上には見えにくいため、気づかないまま放置されがちです。しかし、金融機関は融資審査の際に実態BSを作成して含み損を控除するため、経営者自身が把握していないと「想定外の評価」を受ける原因になります。本記事では、資産の種類ごとに含み損を発見するためのチェックポイントを解説します。
売掛金の健全性チェック
年齢管理(エイジング分析)
売掛金の含み損は、回収遅延や回収不能に起因します。チェックの基本は年齢管理、いわゆるエイジング分析です。売掛金を支払期日からの経過期間(30日未満、30〜60日、60〜90日、90日以上など)で分類し、長期滞留している債権を特定します。未収金の回収率向上に取り組むことで、不良債権化を未然に防ぐことが可能です。
90日超の滞留売掛金は要注意
支払期日から90日以上経過した売掛金は回収リスクが高く、金融機関の実態BS評価では資産から控除される可能性があります。エイジング分析で早期に把握し、貸倒引当金の計上を検討してください。
一般的に、支払期日から90日以上経過した売掛金は回収リスクが高いと判断されます。取引先の信用状態が悪化している場合は、貸倒引当金の計上や貸倒損失の計上を検討する必要があります(法人税基本通達9-6-1〜9-6-3)。
取引先の信用状況確認
売掛金の残高が大きい取引先については、信用調査会社の情報や決算書の入手などを通じて定期的に信用状況を確認します。取引先が経営不振に陥っている場合、帳簿上の売掛金は実質的にはゼロに近い可能性があります。
棚卸資産の健全性チェック
回転期間の分析
棚卸資産回転期間(棚卸資産÷月商)が同業他社や過去の自社実績と比べて長期化していないかを確認します。回転期間の長期化は、在庫の滞留(売れ残り)を示唆しています。
製造業であれば原材料、仕掛品、製品の各段階で回転期間を分析し、どの段階で滞留が生じているかを特定します。小売業であれば商品カテゴリごとの回転率を把握し、動きの遅い商品群を洗い出します。
実地棚卸との照合
帳簿上の在庫数量と実地棚卸の結果に差異がないかも重要なチェックポイントです。差異がある場合は、紛失、破損、陳腐化などの原因を調査し、適切な評価減を行う必要があります。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、正味売却価額が帳簿価額を下回っている場合に評価損を計上することが求められています。
有価証券の健全性チェック
上場株式などの市場価格のある有価証券は、時価との比較で含み損を容易に確認できます。問題は、非上場株式や関連会社株式など市場価格のない有価証券です。発行会社の直近の決算書を入手し、1株あたり純資産額と帳簿価額を比較することで、おおよその含み損を把握できます。
実質価額が取得原価に比べて50%以上低下した場合は、相当の減額を行う必要があります(企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」)。
固定資産の健全性チェック
土地・建物の時価把握
不動産の含み損を確認するには、固定資産税評価額、路線価、不動産鑑定評価額などを用いて時価を推定します。バブル期やその後の高値で取得した不動産は、現在の時価を大幅に下回る含み損を抱えている可能性があります。
減損会計基準(「固定資産の減損に係る会計基準」)では、資産の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識する必要がありますが、中小企業会計指針では減損処理は任意とされています。ただし、金融機関は実態評価において時価ベースで判断するため、自社での把握は不可欠です。
遊休資産の洗い出し
遊休資産は保有コストにも注意
遊休資産を保有し続けると固定資産税や維持管理費がかかり続けます。処分価値と保有コストを比較し、売却や処分を検討することでBSの改善と費用削減の両方が実現できます。
事業に使用していない遊休資産(遊休地、使用停止中の機械装置など)は、処分価値で評価するのが実態に即した方法です。遊休資産を保有し続けると、固定資産税や維持管理費がかかり続けるため、売却や処分を検討することがBSの改善につながります。
実態BSの作成手順
含み損の洗い出しが終わったら、帳簿上のBSに調整を加えて実態BSを作成します。各資産について、帳簿価額と実態評価額の差額を一覧にし、純資産額を再計算します。この作業を通じて、帳簿上は資産超過でも実態では債務超過に近い状態にあるかどうかが明らかになります。
実態BSの作成は金融機関との対話においても有効です。自社で実態を把握し、改善計画とともに提示することで、金融機関からの信頼を高める効果が期待できます。
まとめ
この記事のポイント
- 売掛金のエイジング分析、棚卸資産の回転期間、有価証券の実質価額、固定資産の時価を定期的にチェックして含み損を早期発見する
- 実態BSを作成して帳簿上BSとの乖離を把握し、金融機関に先回りして説明できる体制を整える
- 遊休資産の売却・処分や不良資産の整理を計画的に進め、BSの透明性と信頼性を高める
自社BSの含み損を洗い出したい方、実態BSの作成について判断材料が必要な場合は無料相談をご利用ください。
よくある質問
- Q. 含み損とは何ですか?
- A. 含み損とは、帳簿に記載されている資産の金額(簿価)が、その資産の現在の市場価値(時価)を上回っている状態のことです。例えば、1,000万円で購入した土地の現在の時価が700万円であれば、300万円の含み損が生じています。含み損は帳簿上には現れないため、BSだけでは実態を把握できません。
- Q. 中小企業で含み損が生じやすい資産は何ですか?
- A. 回収不能な売掛金(貸倒れリスクのある債権)、長期滞留の棚卸資産(陳腐化在庫)、取得時より値下がりした有価証券や不動産、実態のない仮払金・立替金などが代表的です。役員貸付金も回収見込みが乏しい場合は実質的な含み損と評価されます。
- Q. 含み損を放置するとどのようなリスクがありますか?
- A. 金融機関の融資審査で実態BSに基づく評価が行われた際に、帳簿上は資産超過でも実態では債務超過と判定される可能性があります。また、含み損を抱えた資産を売却した場合に多額の売却損が発生し、一時的に業績が大幅に悪化するリスクもあります。
- Q. 含み損の洗い出しはどのタイミングで行うべきですか?
- A. 決算期末の2〜3ヶ月前に実施するのが理想的です。決算直前では評価損の計上判断や証拠書類の準備に十分な時間が取れない場合があります。四半期ごとに簡易チェックを行い、決算前に本格的な洗い出しを行うサイクルを定着させると、金融機関への説明もスムーズになります。
もっと読む
編集部おすすめの関連記事
BSに残る不良債権を、決算前に確認する
長期滞留している売掛金・貸付金は、買取や貸倒処理の検討対象になります。債権明細と決算時期をもとに整理方法を確認します。