財務改善ナビ
M&A

売る前に磨く、企業価値

5分で読める

M&A前のバリューアップ|企業価値を高める準備と施策

M&Aで有利な条件を得るために、売却前に企業価値を高める「バリューアップ」の施策を解説。財務改善、ガバナンス整備、事業の磨き上げなど、中小企業が実践できる具体的な方法をまとめました。

M&Aによる事業売却を検討する経営者にとって、「いかに高く、良い条件で売却するか」は最大の関心事です。企業価値を高めてからM&Aに臨む取り組みは「バリューアップ」と呼ばれ、売却価格の向上だけでなく、買い手候補の数を増やし、交渉を有利に進める効果があります。

しかし、バリューアップとは単に決算書の見栄えを良くすることではありません。買い手が重視するポイントを理解し、事業の収益性、持続可能性、移転のしやすさを実質的に高めていく作業です。本記事では、中小企業がM&A前に取り組むべきバリューアップの具体策を整理します。

バリューアップの基本的な考え方

買い手が評価するポイント

バリューアップを効果的に進めるには、買い手がどのような観点で企業を評価するのかを理解する必要があります。

買い手が重視する要素は大きく4つに分類できます。第一に「収益性」で、安定的に利益を生み出す力があるかどうかです。第二に「成長性」で、市場環境や事業ポートフォリオに成長余地があるかです。第三に「持続可能性」で、特定の人物に依存せず事業が継続できるかどうかです。第四に「リスクの低さ」で、簿外債務や法的リスクが少ないかどうかです。

バリューアップは売却の1〜2年前から計画的に着手するのが理想です。決算を1〜2期分改善した状態でM&Aに臨むと、買い手の評価が大きく変わります。

これらの要素を念頭に置いて、自社の強みを伸ばし、弱点を改善する施策を立案していきます。

財務面のバリューアップ

収益構造の改善

売却価格に最も直結するのは、営業利益やEBITDAの水準です。中小企業のM&Aでは「時価純資産+営業権(のれん)」で評価されることが多く、営業権は営業利益の2年分から5年分で計算されるのが一般的です。つまり、営業利益が年間1,000万円改善すれば、営業権の評価額は2,000万円から5,000万円上昇する可能性があります。

収益改善の具体策としては、不採算の取引先や商品ラインの整理、粗利率の改善(仕入条件の見直し、値上げ交渉)、固定費の削減(遊休資産の処分、不要な経費の見直し)などが挙げられます。

営業利益が年間1,000万円改善すれば、営業権の評価額は2,000万円〜5,000万円上昇する可能性があります。収益構造の改善はバリューアップの最優先事項です。

経営者報酬の適正化

中小企業のオーナー経営者は、節税目的で役員報酬を高く設定していることがあります。M&Aの買い手は「正常収益力」を算定するために経営者報酬を適正水準に引き直して評価することが一般的です。

そのため、売却前の段階から経営者報酬を市場水準に近づけておくと、決算書上の利益水準が改善し、バリュエーション上プラスに働きます。

貸借対照表の整理

遊休不動産、回収見込みのない売掛金、関連会社への貸付金など、事業活動に寄与しない資産はデューデリジェンスで減額評価されます。売却前に不要資産の処分や不良債権の償却処理を進めておくことで、貸借対照表をスリムにし、実態純資産の正確性を高められます。

事業面のバリューアップ

オーナー依存の解消

中小企業のM&Aにおいて買い手が最も懸念するのが「オーナー経営者が抜けた後に事業が回るか」という点です。営業、技術、取引先との関係が経営者個人に紐づいている状態は、事業の移転リスクとして評価を下げる要因になります。

対策としては、業務マニュアルの整備、幹部社員への権限委譲、主要取引先との契約の法人名義への切替え、組織的な営業体制の構築などが有効です。

取引先・顧客基盤の安定化

特定の取引先に売上が集中している場合、その取引先を失った際の影響が大きいと見なされ、リスク要因として評価額が下がります。売上の分散化を図り、上位1社の売上構成比を20%以下に抑えることが理想的です。

また、継続的な収益が見込めるストック型の収益(サブスクリプション、保守契約、定期取引等)は、将来の安定性を示すものとして買い手に高く評価されます。

許認可・知的財産の整備

建設業許可、宅建業免許、特定の技術に関する特許・実用新案など、事業を継続するうえで欠かせない許認可や知的財産が適切に管理・維持されているかを確認します。許認可の期限切れや更新漏れがあると、デューデリジェンスで問題として指摘されます。

ガバナンス・法務面の整備

株主構成の整理

少数株主が分散している状態は、M&Aの障害となります。株式譲渡には原則として全株主の同意が必要なためです。名義株の整理、所在不明株主の対応、株式の集約を事前に進めておくことが望まれます。

法務リスクの洗い出し

未払残業代、労務トラブル、環境問題、許認可違反など、潜在的な法務リスクはデューデリジェンスで発覚した場合に大幅な価格減額や破談の原因となります。事前に自社で法務リスクを洗い出し、可能なものは解決しておくことで、買い手の安心感を高められます。

税務申告の正確性

過去の税務申告に誤りがないか、税務調査で問題を指摘される可能性がないかを確認します。修正申告が必要な場合は早めに対応しておくことが重要です。

バリューアップの進め方

準備のタイムライン

バリューアップは一朝一夕で完了するものではなく、M&Aを本格的に検討する1年から2年前から計画的に進めるのが理想です。まず現状の課題を診断し、優先順位をつけて施策を実行し、改善後の決算期を経てからM&Aプロセスに入るという流れが効果的です。

外部専門家の活用

自社だけでバリューアップを進めることも可能ですが、M&Aアドバイザーや経営コンサルタントの視点を入れることで、買い手のニーズに沿った施策を効率的に立案できます。特に財務改善や株主構成の整理は専門知識が必要な場合が多く、税理士や弁護士との連携が有効です。

まとめ

要点

  • バリューアップの3本柱は「財務面の収益改善」「事業面のオーナー依存解消」「ガバナンスの整備」であり、買い手の評価ポイントを意識した計画的な実行が重要
  • 営業利益の改善、BS上の不要資産の整理、株主構成の集約など、具体的な施策を売却の1〜2年前から進めることで成約条件が向上する
  • 自社だけで対応が難しい場合はM&Aアドバイザーや税理士と連携し、買い手ニーズに合った施策を効率的に立案する

バリューアップの効果はバリュエーション(企業価値評価)の結果に直結します。売却に向けた具体的な手続きは中小企業のM&A手続きガイドで全体像を確認できます。

バリューアップの施策立案や企業価値の概算について、無料相談を受け付けています。ご連絡ください。

よくある質問

Q. バリューアップにはどのくらいの期間が必要ですか?
A. 施策の内容によりますが、最低でも1年から2年の準備期間を見込むのが現実的です。財務改善であれば決算を1期から2期分改善した状態で臨むのが望ましく、ガバナンス整備や事業の磨き上げにも相応の時間を要します。M&Aを検討し始めた段階から計画的に取り組むことが大切です。
Q. 赤字企業でもバリューアップは可能ですか?
A. 可能です。赤字の原因を分析し、不採算事業の整理、固定費の削減、収益構造の見直しを行うことで財務体質を改善できます。また、技術力や顧客基盤、許認可といった無形の価値を可視化して買い手にアピールすることも有効な施策です。
Q. バリューアップの費用はどの程度かかりますか?
A. 外部のコンサルタントやM&Aアドバイザーに支援を依頼する場合、月額30万〜100万円程度の費用が発生します。ただし、自社の経営判断で実行できる施策も多く、全てを外部委託する必要はありません。投じたコスト以上に売却価格の上昇が見込めるかどうかが判断の基準です。
Q. バリューアップとM&Aの準備は並行して進められますか?
A. 並行して進めることが可能であり、むしろ推奨されます。M&Aアドバイザーとの初期相談を行いつつ、バリューアップの施策を実行していくのが効率的です。バリューアップの進捗状況に応じて買い手候補への打診時期を調整できるため、柔軟なスケジュール管理が可能になります。

もっと読む

売却・承継前に確認する論点を整理する

株式譲渡、事業譲渡、承継、PMIで確認すべき資料と手順を現在の段階に合わせて整理します。

論点を確認する