テレワークの労務管理|在宅勤務の就業規則と勤怠管理
テレワーク導入時に必要な就業規則の変更、勤怠管理の方法、労働時間制度の選択肢を解説。在宅勤務における労災や費用負担の取り扱いもまとめています。
テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)は、働き方改革の推進や感染症対策を契機に多くの企業で導入が進みました。しかし、テレワークの導入にあたっては、労働時間の管理、就業規則の整備、費用負担のルール策定など、従来のオフィス勤務とは異なる労務管理上の課題に対応する必要があります。厚生労働省は「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定)を公表しており、企業が遵守すべき事項を示しています。本記事では、中小企業がテレワークを適切に運用するための労務管理のポイントを解説します。
テレワーク導入時の就業規則の整備
テレワークを導入する際には、既存の就業規則にテレワークに関する規定を追加するか、テレワーク勤務規程を別途作成する必要があります。
就業場所の規定
労働基準法第15条に基づき、使用者は労働契約の締結に際し、就業の場所を明示する義務があります。テレワークを実施する場合は、自宅やサテライトオフィスなどの就業場所を労働条件通知書に明記する必要があります。就業規則においても、テレワーク勤務の対象者、対象業務、就業場所に関する規定を設けましょう。
テレワーク勤務の対象者の範囲は、業務の性質、職種、勤続年数などの基準を設けて明確に定めることが重要です。対象者の選定にあたっては、正規雇用・非正規雇用の別のみを理由とした不合理な差異が生じないよう、パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条に留意する必要があります。
テレワーク時の服務規律
テレワーク勤務中の服務規律として、業務専念義務、情報セキュリティの遵守、業務報告の方法、連絡可能な状態の維持などを規定しておきます。自宅勤務では業務とプライベートの境界が曖昧になりやすいため、中抜け時間の取り扱い(休憩時間として扱うか、時間単位年休を取得させるかなど)も明確にしておくことが望ましいとされています。
費用負担に関する規定
テレワーク勤務に伴い発生する通信費、光熱費、備品購入費などの費用について、会社と労働者のどちらが負担するかを明確に定める必要があります。労働基準法第89条第5号は、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合には就業規則に定めなければならないとしています。
実務上は、テレワーク手当として月額3,000円〜5,000円程度を支給する企業が多く見られます。なお、テレワーク手当が実費弁償としての性質を持つ場合は、所得税法上の非課税所得として取り扱われる可能性があります(国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」参照)。
テレワークにおける労働時間管理
テレワークにおいても、使用者は労働者の労働時間を適正に把握する義務を負います(労働安全衛生法第66条の8の3)。テレワーク特有の課題に対応した労働時間管理の方法を整備しましょう。
始業・終業時刻の管理方法
テレワークガイドラインでは、テレワークにおける労働時間の管理方法として、メール・電話・チャットツールによる始業・終業の報告、勤怠管理システムによる打刻、パソコンの使用時間の記録などが挙げられています。
自己申告制により始業・終業時刻を把握する場合は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従い、自己申告により把握した労働時間とパソコンの使用状況等から把握した在席時間との間に著しい乖離がないか確認することが求められます。
適用可能な労働時間制度
テレワークでは、通常の労働時間制に加え、以下の労働時間制度を活用することも考えられます。
フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)は、清算期間内の総労働時間の範囲内で始業・終業時刻を労働者の裁量に委ねる制度であり、テレワークとの親和性が高いとされています。コアタイムを設定しない完全フレックスタイム制を導入すれば、中抜け時間への柔軟な対応も可能です。
事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいときに、所定労働時間または通常必要とされる時間を労働したものとみなす制度です。ただし、テレワークガイドラインによれば、パソコンが常時接続されていて使用者が随時労働者の具体的な業務内容を把握・指示できる場合は、「労働時間を算定し難いとき」に該当しないとされており、適用には注意が必要です。
長時間労働の防止策
テレワークでは、仕事と生活の境界が曖昧になりやすく、長時間労働に陥るリスクがあります。テレワークガイドラインでは、メール送付の抑制(時間外のメール送信を禁止・制限する)、システムへのアクセス制限(深夜・休日のシステム利用を制限する)、テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止などの対策が推奨されています。
テレワーク中の安全衛生と労災
テレワーク勤務においても、使用者の安全配慮義務(労働契約法第5条)は免除されません。テレワーク特有のリスクに対応した安全衛生管理が求められます。
作業環境の整備
テレワークガイドラインでは、自宅等でテレワークを行う際の作業環境について、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(令和元年7月12日基発0712第3号)に基づく環境整備が推奨されています。照明、椅子、机の高さ、室温・湿度などの作業環境に関するチェックリストを提供し、労働者自身が自宅の作業環境を確認・改善できるようにすることが有効です。
テレワーク中の労災認定
テレワーク中の負傷・疾病であっても、業務に起因するものであれば労災保険の給付対象となります。業務遂行性(使用者の指揮監督下にあること)と業務起因性(業務と傷病との間に因果関係があること)の2つの要件を満たす必要があります。
テレワーク中は業務と私的行為の境界が不明確になりやすいため、労災認定の判断が難しいケースが生じ得ます。企業としては、テレワーク中の業務時間と休憩時間を明確に区分し、業務日報やチャットの記録を残しておくことが、労災認定の判断においても有用です。
メンタルヘルス対策
テレワークでは、上司や同僚とのコミュニケーション不足、孤独感、仕事と私生活の切り替えの困難さなどから、メンタルヘルス上の問題が生じやすいとされています。定期的なオンラインミーティングの実施、1on1面談の実施、相談窓口の周知などの対策を講じましょう。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています(労働安全衛生法第66条の10)。
まとめ
- テレワーク導入時には、就業場所の追加、服務規律、費用負担のルールなどを就業規則に定め、労働条件通知書にも就業場所を明記する必要がある
- 労働時間の管理はテレワークにおいても使用者の義務であり、始業・終業の報告方法の整備、フレックスタイム制の活用、長時間労働防止策の実施が求められる
- テレワーク中の安全衛生管理、労災対応、メンタルヘルスケアにも配慮し、オフィス勤務と同等の安全配慮義務を果たすことが重要である
よくある質問
- Q. テレワークを導入する場合、就業規則の変更は必要ですか?
- A. テレワークに伴い、就業場所の追加、通信費・光熱費の負担に関する規定、テレワーク時の服務規律などを定める場合は、就業規則の変更が必要です(労働基準法第89条)。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
- Q. テレワーク中の労働時間はどのように管理すればよいですか?
- A. 厚生労働省の『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』では、始業・終業時刻の報告(メール、チャット、勤怠管理ツール等)による管理が推奨されています。パソコンのログ記録や勤怠管理システムの活用も有効です。自己申告制を採用する場合は、適正な申告を阻害しない措置を講じる必要があります。
- Q. テレワーク中の事故は労災の対象になりますか?
- A. テレワーク中であっても、業務に起因する負傷・疾病であれば労災保険の給付対象となります。ただし、私的行為に起因する負傷は対象外です。たとえば、自宅で業務中にトイレに行く途中で階段から転落した場合は業務災害と認められる可能性がありますが、私用で外出中の負傷は対象外です。
- Q. テレワーク時の通信費や光熱費は会社が負担すべきですか?
- A. 法律上の義務はありませんが、労働基準法第89条第5号により、労働者に費用を負担させる場合は就業規則に定める必要があります。テレワークガイドラインでは、費用負担のルールをあらかじめ労使で話し合って決めておくことが推奨されています。実務上はテレワーク手当として一定額を支給する企業が増えています。