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退職金制度の設計と見直し|中小企業向け選択肢

中小企業が退職金制度を導入・見直す際の選択肢と設計のポイントを解説。中退共・確定拠出年金・社内準備など、制度ごとのメリットとデメリットを比較します。

退職金制度は、従業員の長期勤続を促進し、老後の生活保障に寄与する重要な制度です。中小企業においても人材の確保・定着のために退職金制度を設けるケースが多くありますが、「制度を設けたいが資金繰りが不安」「既存の制度が時代に合わなくなっている」という悩みを抱える経営者は少なくありません。退職金制度には複数の選択肢があり、自社の規模や資金力に合った制度を選ぶことが長期的な経営の安定につながります。本記事では、中小企業が退職金制度を設計・見直す際に知っておくべき選択肢と実務のポイントを解説します。

退職金制度の種類と特徴

社内準備方式

企業が自社の内部資金で退職金を積み立て、退職時に支払う方法です。制度設計の自由度が高く、支給額の計算方法や支給条件を自社の方針に合わせて柔軟に設定できます。

ただし、退職金の支払原資を社内で確保しておく必要があるため、多額の退職金が集中した場合に資金繰りが厳しくなるリスクがあります。また、税務上の損金算入は退職金を実際に支払った時点であり、積立段階では損金にならない点にも注意が必要です。中小企業退職金共済法に基づく外部積立と比べて、資金の社外流出がない反面、倒産時に従業員が退職金を受け取れないリスクもあります。

中小企業退職金共済(中退共)

独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの退職金共済制度です。事業主が従業員ごとに掛金を拠出し、従業員が退職した際に機構から直接退職金が支払われます。

中退共のメリットとして、掛金が全額損金(必要経費)に算入できること、新規加入の場合は加入後4か月目から1年間にわたり掛金の半額(月額上限5,000円)が国から助成されること、掛金の増額時にも1年間の助成があること、事業主の事務負担が比較的軽いことが挙げられます。

一方で、短期勤続者(1年未満)には退職金が支給されないこと、掛金納付月数が3年7か月未満の場合は元本割れの可能性があること、一度加入すると掛金の減額が原則として従業員の同意を要することなどがデメリットです。

企業型確定拠出年金(DC)

事業主が従業員ごとに拠出した掛金を、従業員自身が運用商品を選んで運用する制度です。確定拠出年金法に基づき運営され、運用結果によって将来受け取る年金額が変動します。

企業型DCの利点は、掛金が全額損金算入できること、従業員の転職時にポータビリティ(持ち運び)が確保されていること、退職給付債務を計上する必要がないため企業の財務負担が予測しやすいことです。

導入にあたっては、運営管理機関の選定、投資教育の実施義務、運用商品のラインナップ設計などが必要です。中小企業向けには「iDeCo+(イデコプラス)」という、従業員のiDeCo(個人型確定拠出年金)に事業主が上乗せ拠出できる簡易な仕組みもあります。従業員300人以下の中小企業が対象で、導入の手間やコストが企業型DCよりも軽減されます。

退職金の算定方法と制度設計

基本給連動型と定額方式

退職金の算定方法は大きく分けて2つあります。基本給連動型は「退職時の基本給 × 勤続年数に応じた支給係数」で計算する方式で、長く勤めるほど退職金が増える仕組みです。従来の日本企業で広く採用されてきましたが、基本給が上がるほど退職金も連動して増加するため、将来の支払額が膨らむリスクがあります。

定額方式は、勤続年数に応じて一定額を設定する方法です。たとえば「勤続1年あたり10万円」のように設定し、勤続20年なら200万円と計算します。基本給の変動に左右されないため支払額の見通しが立てやすく、中小企業では管理の簡便さから採用する企業が増えています。

ポイント制退職金

近年注目されているのが、ポイント制退職金です。勤続年数、役職、職務内容、人事評価などに応じて毎年ポイントを付与し、退職時にポイント累計額にポイント単価を乗じて退職金を算出する方式です。

ポイント制の利点は、貢献度に応じた退職金の設計が可能なこと、制度変更時にポイント単価の調整で柔軟に対応できること、人事評価制度と連動させることで従業員のモチベーション向上につなげられることです。ただし、制度の設計と運用がやや複雑になるため、社会保険労務士やコンサルタントの支援を受けながら導入を検討するのが現実的です。

既存制度の見直しと移行のポイント

見直しの必要性を判断するチェックポイント

既存の退職金制度について、以下の点を定期的に確認してみてください。積立不足が発生していないか、将来の支払額が企業の資金力に見合っているか、制度の内容が現在の人事方針と整合しているか、従業員の納得感を得られているか。これらのいずれかに問題がある場合は、見直しを検討すべきタイミングです。

制度変更時の法的注意点

退職金の減額は労働条件の不利益変更にあたるため、労働契約法第9条により原則として従業員の個別同意が必要です。同意なく一方的に変更した場合、変更の合理性(労働契約法第10条)が問われます。

実務上は、既に勤続している従業員について、変更前の制度に基づく退職金相当額を保障する経過措置を設けることが重要です。たとえば「制度変更日までの勤続期間は旧制度で計算し、変更日以降は新制度で計算する」といった併用方式は、従業員の不利益を緩和する方法として広く採用されています。

制度の見直しにあたっては、従業員への説明会の実施、個別面談による同意取得、変更内容を反映した就業規則の改定と届出を、順を追って丁寧に進めてください。

まとめ

退職金制度の設計・見直しについて、中小企業が押さえるべきポイントは以下の3つです。

  • 自社に合った制度を選択する:中退共、企業型DC、iDeCo+、社内準備などの選択肢を比較し、資金力・管理体制・人事方針に合った制度を選ぶ
  • 算定方法は将来の負担を見据えて設計する:基本給連動型は支払額が膨らむリスクがあるため、定額方式やポイント制への移行も検討する
  • 制度変更は法的リスクに配慮して進める:不利益変更には従業員の同意が原則必要。経過措置の設定と丁寧な説明で、円滑な移行を図る

よくある質問

Q. 中小企業に退職金制度の導入義務はありますか?
A. 法律上の義務はありません。ただし、就業規則に退職金の定めがある場合は支払義務が生じます。人材確保の観点から導入する中小企業は多く、厚生労働省の調査では従業員30~99人の企業の約77%が何らかの退職給付制度を設けています。
Q. 中退共(中小企業退職金共済)の掛金はいくらですか?
A. 月額5,000円から30,000円の範囲で16段階から選択できます。短時間労働者は月額2,000円からの特例掛金もあります。新規加入時や掛金増額時には国の助成制度もあります。
Q. 退職金の支給額の相場はどのくらいですか?
A. 中小企業の場合、勤続20年の自己都合退職で200万~300万円程度、定年退職で500万~800万円程度が一般的な水準です。業種や企業規模により大きく異なります。
Q. 既存の退職金制度を変更する際の注意点は?
A. 退職金の減額は労働条件の不利益変更にあたるため、労働契約法第9条・第10条の規定に基づき、原則として従業員の同意が必要です。経過措置の設定や代替措置の提供を含め、慎重に進める必要があります。

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