労働保険の加入手続きと保険料計算|中小企業の実務ガイド
労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きと保険料の計算方法を解説。適用事業所の要件、届出書類の書き方、概算保険料と確定保険料の年度更新手続きなど、中小企業の実務担当者に必要な情報をまとめています。
従業員を雇用する事業主にとって、労働保険への加入は法律上の義務です。労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険の総称であり、それぞれ異なる目的と制度設計を持っています。本記事では、労働保険の加入手続きの流れと保険料の計算方法を、中小企業の実務担当者向けに解説します。
労働保険の基本と適用要件
労働保険は、労働者の業務上の災害や失業に対する保障を行う公的保険制度です。労災保険は労働者災害補償保険法、雇用保険は雇用保険法にそれぞれ基づいて運営されています。
適用事業の範囲
労働者を1人以上雇用する事業は、業種・規模を問わず原則として労働保険の適用事業となります。法人企業だけでなく、個人事業であっても従業員を雇用すれば加入義務が生じます。
ただし、農林水産業の一部(常時5人未満の個人事業)については暫定任意適用事業とされ、加入が任意となる場合があります。それ以外の事業は強制適用であり、事業を開始した日から10日以内に所定の届出を行わなければなりません。
労災保険と雇用保険の対象者
労災保険は、雇用形態を問わずすべての労働者が対象です。正社員、パート、アルバイト、日雇い、外国人労働者のいずれも、使用される労働者であれば自動的に労災保険の保護を受けます。個別の加入手続きは不要で、保険料は全額事業主が負担します。
雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者が被保険者となります。雇用保険法第6条に規定される適用除外(65歳以上で新たに雇用される者のうち一定の要件を満たさない者、学生アルバイト等)に該当しない限り、要件を満たす労働者は必ず届け出なければなりません。
加入手続きの流れ
労働保険の加入手続きは、労災保険と雇用保険で届出先が異なります。それぞれの手続きの流れを確認しましょう。
労働保険の保険関係成立届
事業を開始して労働者を雇用したら、保険関係が成立した日の翌日から10日以内に「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出します。同時に、保険関係が成立した日の翌日から50日以内に「概算保険料申告書」を提出し、概算保険料を納付します。
保険関係成立届には、事業の種類、事業開始年月日、労働者数、賃金総額の見込みなどを記載します。添付書類として、登記事項証明書(法人の場合)や事業所の所在地を確認できる書類が求められることがあります。
雇用保険の適用事業所設置届
雇用保険については、事業所を設置した日の翌日から10日以内に「適用事業所設置届」を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。併せて、雇用保険の被保険者となる従業員ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。
適用事業所設置届には、労働保険番号(保険関係成立届の手続きで付番される番号)の記載が必要です。したがって、先に労働基準監督署で保険関係成立届の手続きを行い、その後にハローワークで雇用保険の手続きを行うのが一般的な流れです。
電子申請の活用
労働保険の各種届出は、e-Gov電子申請システムを利用してオンラインで行うこともできます。特に、2020年4月以降は特定の法人について一部の届出が電子申請義務化されています。中小企業であっても電子申請の活用は事務効率化に有効ですので、導入を検討してください。
保険料の計算方法と年度更新
労働保険料は、事業場の全労働者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて計算します。保険料率は業種ごとに異なり、毎年度改定される場合があります。
保険料の計算
労働保険料は以下の算式で計算します。
労働保険料 = 賃金総額 × 保険料率
賃金総額には、基本給、諸手当、賞与、通勤手当など、労働の対償として支払われるすべての報酬が含まれます。退職金や見舞金など、臨時に支払われるものや恩恵的に支払われるものは除外されます。
労災保険料率は、業種ごとの災害発生リスクに応じて1000分の2.5から1000分の88まで設定されています。事務職中心の業種は低く、建設業や林業などは高い料率が適用されます。労災保険料は全額事業主負担です。
雇用保険料率は、失業等給付の料率と雇用保険二事業の料率の合計です。事業主と労働者がそれぞれ負担します。一般の事業の場合、事業主負担は1000分の9.5、労働者負担は1000分の6(令和5年度の例)程度ですが、年度ごとに変動するため厚生労働省の告示で最新の料率を確認してください。
年度更新の手続き
労働保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの保険年度を単位として計算されます。年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間に行う定期的な手続きで、前年度の確定保険料の精算と当年度の概算保険料の申告・納付を同時に行います。
前年度に実際に支払った賃金総額に保険料率を乗じて確定保険料を算出し、すでに納付した概算保険料との差額を精算します。概算保険料が確定保険料を上回った場合は還付または充当、下回った場合は不足分を追加納付します。
当年度の概算保険料は、当年度に支払う見込みの賃金総額に保険料率を乗じて算出します。概算保険料が40万円以上の場合は、最大3回に分けて分割納付が可能です。
まとめ
- 労働者を1人でも雇用する事業は労働保険(労災保険・雇用保険)への加入が法律上の義務であり、事業開始から10日以内に保険関係成立届を提出する必要がある
- 労災保険はすべての労働者が対象(保険料は全額事業主負担)、雇用保険は所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者が対象であり、それぞれ届出先が異なる
- 保険料は賃金総額に保険料率を乗じて計算し、毎年6月1日から7月10日の年度更新で前年度の精算と当年度の概算納付を行うため、賃金台帳の正確な管理が不可欠である
よくある質問
- Q. 労働保険に加入しないとどうなりますか?
- A. 労働者を1人でも雇用する事業は、原則として労働保険の適用事業となり、加入が法律上の義務です。未加入の場合、労働保険の保険料の徴収等に関する法律に基づき、遡って保険料の納付を求められるほか、追徴金(保険料の10%)が課される場合があります。また、未加入期間中に労災事故が発生した場合、事業主がその費用を負担させられることがあります。
- Q. パートやアルバイトも労災保険に加入する必要がありますか?
- A. はい。労災保険は、パート・アルバイト・日雇い・外国人労働者を含むすべての労働者が対象です。雇用形態や労働時間に関係なく、使用される労働者はすべて労災保険の保護を受けます。労災保険料は全額事業主負担であり、労働者の個別の加入手続きは不要です。
- Q. 雇用保険の加入条件は何ですか?
- A. 雇用保険の被保険者となる要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であること、31日以上の雇用見込みがあることの2点です。この要件を満たす労働者は、パート・アルバイトであっても雇用保険の被保険者として届け出なければなりません。
- Q. 労働保険の年度更新とは何ですか?
- A. 労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間に、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。前年度に支払った実際の賃金総額をもとに確定保険料を算出し、概算保険料との過不足を精算します。同時に、当年度の賃金見込額に基づく概算保険料を申告・納付します。