役員借入金の整理方法|BS改善の実務と税務
役員借入金がBSに与える悪影響と、DES・債務免除・増資による整理方法を解説。法人税法・会社法・相続税法の観点から、中小企業が金融機関評価を改善するための実務ポイントをまとめました。
中小企業の貸借対照表(BS)を確認すると、「役員借入金」が数千万円単位で計上されているケースは珍しくありません。創業期の資金不足を社長個人の資金で補填した、赤字が続いて運転資金を社長が立て替えた、といった経緯で積み上がったものです。
会社にとっては「社長からの借金」ですが、金融機関や税務の視点では、放置するだけでBSの評価を引き下げる要因になります。本記事では、役員借入金がBSに与える影響を整理したうえで、DES・債務免除・増資の3つの整理手法と税務上の注意点を解説します。
役員借入金がBSに与える影響
自己資本比率の低下
役員借入金はBS上「負債の部」に計上されます。これが膨らむと、総資産に占める純資産の割合(自己資本比率)が低下します。
金融機関が融資審査で見るのは、まさにこの自己資本比率です。たとえ業績が好調でも、役員借入金が重なって自己資本比率が10%を下回っていれば、財務体質が脆弱と判断されかねません。
金融機関の実質的な評価
実務上、金融機関の中には役員借入金を「実質的な自己資本」として評価するケースもあります。代表者個人からの借入であれば、第三者への返済義務と異なり、返済の優先度が低いと判断されるためです。
ただし、この扱いは金融機関ごとに異なります。信用格付において自動的に負債として扱うシステムを採用している金融機関では、どれだけ説明しても数値上の評価は変わりません。確実にBS改善の効果を出すには、帳簿上の整理が必要です。
相続税の問題
もう一つ見落とされがちなのが、相続税法上のリスクです。役員借入金は、代表者から見れば「会社に対する貸付債権」です。代表者が亡くなった場合、この貸付債権は相続財産として額面で評価されます(財産評価基本通達204)。
会社に返済能力がないにもかかわらず、額面どおりの評価がなされると、相続人に過大な相続税負担が生じる恐れがあります。会社の財務状態によっては評価減が認められるケースもありますが、要件が厳しく、事前の対策が求められます。
整理の具体的手法
役員借入金を整理する方法は、大きく3つに分類されます。それぞれの特徴を把握し、自社の状況に合った手法を選ぶことが大切です。
| 手法 | 概要 | BS上の効果 | 主な留意点 |
|---|---|---|---|
| DES(デット・エクイティ・スワップ) | 貸付債権を現物出資し資本に振替 | 負債減少+純資産増加 | 登記手続き・みなし譲渡課税 |
| 債務免除 | 役員が債権を放棄 | 負債減少 | 債務免除益への法人税課税 |
| 増資による返済 | 第三者割当増資で調達し返済 | 負債減少+純資産増加 | 資金調達が前提 |
DES(デット・エクイティ・スワップ)
DESは、役員が保有する貸付債権を会社に現物出資し、代わりに株式を取得する方法です。会社法199条1項に基づく募集株式の発行手続きとして行います。
手続きの流れ:
- 取締役会(または株主総会)で募集株式の発行を決議
- 現物出資の対象(貸付債権)と出資価額を決定
- 検査役の調査(会社法207条9項5号により、弁済期到来済みの金銭債権で帳簿価額以下であれば不要)
- 出資の履行と株式の発行
- 資本金の増加に伴う変更登記
税務上の取り扱い:
法人税法上、DESには「券面額説」と「時価評価説」の2つの考え方があり、平成18年度税制改正以降は時価評価が原則とされています。貸付債権の時価が額面を下回る場合、差額が債務消滅益(法人税法22条2項)として課税される点に注意が必要です。
一方、役員側では、貸付債権を時価で譲渡したものとみなされます。債権の取得価額と時価の差額が、みなし譲渡損益として所得税の課税対象になります(所得税法59条)。
債務免除
役員が会社に対する貸付債権を放棄する方法です。手続きは比較的簡素で、債務免除通知書を書面で作成し、会社に交付するだけで成立します。
税務上の注意点:
- 法人側: 債務免除益が益金に算入されます(法人税法22条2項)。繰越欠損金がある場合は相殺可能ですが、欠損金が不足すると法人税の負担が発生します
- 役員側: 債権放棄は寄附とみなされる場合があります。特に、法人の株主が役員本人以外にもいる場合、他の株主の株式価値が増加し、みなし贈与(相続税法9条)として贈与税が課される可能性があります
債務免除を行う場合は、事前に法人税・贈与税の両面からシミュレーションを行い、税理士に確認することを推奨します。
増資による返済
新たに増資(第三者割当増資など)を行い、調達した資金で役員借入金を返済する方法です。BS上は資本金が増加し、負債(役員借入金)が減少するため、自己資本比率の改善効果があります。
ただし、資本金が1億円を超えると中小企業者の税制優遇(法人税法66条の軽減税率、中小企業投資促進税制など)を受けられなくなります。増資後の資本金の水準にも配慮が必要です。
税務上の注意点
繰越欠損金との関係
DESや債務免除で発生する債務消滅益・債務免除益は、繰越欠損金と相殺できます。法人税法57条に基づき、青色申告法人は10年間(2018年4月1日以後開始事業年度)の繰越が認められています。
整理を実施する前に、繰越欠損金の残高と使用期限を必ず確認してください。欠損金の期限切れが迫っている場合は、むしろ積極的に債務免除を活用して欠損金を消化するという戦略も考えられます。
役員給与との関係
役員借入金の返済が実質的に役員への利益供与と認定されるケースがあります。特に、合理的な理由なく高額な利息を付している場合や、返済条件が第三者間取引と著しく異なる場合は、法人税法34条(役員給与の損金不算入)の適用を受ける可能性があります。
返済条件は書面で明確にし、議事録に残しておくことが実務上の防衛策になります。
相続対策としての計画的整理
代表者の年齢が高い場合、相続発生前に計画的に役員借入金を整理しておくことが重要です。具体的には以下の方法が考えられます。
- 毎期少額ずつ債務免除を行い、法人税の影響を分散する
- DESで株式に転換し、事業承継税制(租税特別措置法70条の7の5)の対象とする
- 生命保険を活用し、相続発生時に死亡保険金で返済原資を確保する
いずれの方法も、税理士・会計士と連携しながら複数年にわたる計画を策定することが望ましいでしょう。
金融機関の評価への影響
整理前後のBS変化イメージ
役員借入金5,000万円をDESで整理した場合のBSの変化を見てみましょう。
整理前:
| 資産の部 | 負債・純資産の部 |
|---|---|
| 総資産 1億円 | 役員借入金 5,000万円 |
| その他負債 3,000万円 | |
| 純資産 2,000万円 |
自己資本比率: 20%
整理後(DES実施):
| 資産の部 | 負債・純資産の部 |
|---|---|
| 総資産 1億円 | その他負債 3,000万円 |
| 純資産 7,000万円 |
自己資本比率: 70%
このように、役員借入金の整理はBSの見た目を大きく変えます。融資審査における信用格付が改善し、借入条件の改善につながるケースも少なくありません。
金融機関への説明のポイント
役員借入金の整理を行った際は、決算報告の場で金融機関にその旨を説明することが重要です。説明なしにBSが大きく変わると、かえって不信感を持たれることがあります。
説明のポイントは以下の3つです。
- 整理の目的: 財務体質の健全化、事業承継に向けた準備など
- 手法の概要: DES・債務免除のどちらを採用したか、税務処理はどうなっているか
- 今後の方針: 新たな役員借入金の発生を防ぐための体制整備
金融機関は「経営者が自社の財務課題を認識し、主体的に改善に取り組んでいる」という姿勢を高く評価します。
まとめ
役員借入金の整理は、中小企業のBS改善において効果の大きい施策です。DES・債務免除・増資による返済の3つの手法があり、それぞれ法人税法・会社法・相続税法が関係します。
整理の実施にあたっては、繰越欠損金の残高確認、みなし贈与の検討、金融機関への説明準備が欠かせません。税理士・会計士と連携し、自社に最適な整理方法を選択してください。
よくある質問
- Q. 役員借入金を放置すると何が問題ですか?
- A. BSの負債が膨らみ自己資本比率が低下するため、金融機関からの評価が悪化します。また、代表者に万が一のことがあった場合、その借入金は相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法の評価上、額面評価が原則)。
- Q. DES(デット・エクイティ・スワップ)とは何ですか?
- A. DESとは、役員が会社に対して持つ貸付債権を現物出資し、資本金(または資本準備金)に振り替える手法です。負債が減り、純資産が増えるため、自己資本比率が大幅に改善します。会社法199条に基づく手続きが必要です。
- Q. 債務免除を行うと税務上のリスクはありますか?
- A. 債務免除を受けた法人側には、免除益(債務免除益)が発生し、法人税の課税対象となります(法人税法22条2項)。繰越欠損金がある場合はこれと相殺できますが、欠損金が不足すると課税が発生するため、事前のシミュレーションが不可欠です。